研究課題/領域番号 |
17K09074
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
稲庭 拓 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 加速器工学部, チームリーダー(定常) (10446536)
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研究分担者 |
兼松 伸幸 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 病院, 室長(定常) (10221889)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 粒子線治療 / 線量計算 / 不均質物質 / 治療計画 |
研究実績の概要 |
高エネルギー荷電粒子線を用いたがん治療の良し悪しは、治療計画において、粒子線により体内に付与される線量分布を精度よく予測できるかに強く依存する。本件は、粒子線がCT画像では捉えられない微細な構造をもつ不均質物質(固定具や肺組織)を通過した際に生じる線量分布の変化を調べ、これをモデル化することで、CT画像の部分容積効果に起因した線量分布の計算誤差を軽減するための汎用的なアルゴリズムの開発を目的とする。 国内外の粒子線治療施設で広く用いられているモールドケアとVacLocの二つの固定具材(不均質物質)を通過した際に生じる粒子線の線量分布の変化(Braggピークの拡大)を調べた。ここでは、二つの固定具材を厚さ15, 30 cmのブロック状に加工し、それらを水槽の上流に設置する。ここに加速された炭素線を照射し、固定具材通過後の水中深部線量分布を平行平板電離箱で測定した。次に、固定具を水と空気の微小な立方体が無作為に配列された物体であると仮定し、物体通過後の粒子線のBraggピーク広がりを、確率論に従って表現する数学アルゴリズムを開発した。測定した深部線量分布に対して本アルゴリズムを適用し、固定具材固有の広がりパラメーター(阻止能比と粒状性)を決定した。更に、決定したパラメーターを用いて粒子線の深部線量分布を計算する線量計算ツールを開発した。これにより、任意の厚さの固定具材を通過した粒子線の部線量分布を予測することが可能になった。この線量計算ツールの妥当性を検証するべく、15 cm厚の固定具材の下流に設置した水槽中に仮定した立方体標的(一辺が6 cm)に平坦な線量分布を実現するための照射計画を立て、その計画に従う炭素線照射実験を実施した。計画した線量分布と測定した線量分布は良い精度で一致した。これらの結果については、国際学会で発表し、また原著論文にまとめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度に計画していた、(29-1)固定具の製作、(29-2)固定具通過後の線量分布データ収集、(29-3)固定具通過後の線量分布修正方法の確立、については順調に作業を終えている。更に、平成30年度以降に計画していた、固定具通過後の粒子線線量分布計算ツールを開発し、炭素線照射実験を通して、開発したツールの妥当性を示した。これらの研究結果については、平成30年6月3日から開催される国際学会にて発表予定であり、並行して原著論文を執筆中である。このように数学アルゴリズムや線量計算ツールの開発作業自体は、当初の計画以上に進展している。しかしながら、人体ファントムの仕様決定や発注作業がやや遅れ、平成30年度への繰越金が発生している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、第一に人体ファントムの仕様決定、発注作業を行う。人体ファントムや周辺機器の納品を待つ期間には、平成29年度に開発した数学アルゴリズムとそれを用いた線量計算ツールに関して原著論文にまとめ、英文誌Physics in Medicine and Biologyに投稿する。人体ファントムが納品され次第、当初の計画に沿って、(30-1)人体ファントム通過後の線量分布データ収集、(30-2)人体ファントム通過後の線量分布修正方法の確立、(30-3)患者内での線量分布計算ツールの開発、を行っていく。平成30年度に計画している内容についても、国内学会および国際学会での発表、原著論文の執筆を行う予定である。平成31年度は、当初の計画通り、(31-1)平成30年度までに開発するアルゴリズムおよび線量計算ツールの精度と有用性の評価を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 購入を予定していた固定具材について、所属機関である放射線医学総合研究所で所有する材料を利用することができたため、それらの材料を購入する必要がなくなった。その予算を含めて、人体ファントムの仕様を再検討する必要が生じ、人体ファントムの発注が遅れたため。 (使用計画) 2018年6月中には人体ファントム(胸部ファントムおよびCT校正ファントム)の仕様を決定し、作成する。平成29年度に得られた成果を、2018年6月に開催される国際学会に発表する予定であり、その旅費として使用する。
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