研究課題/領域番号 |
17K09079
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研究機関 | 福井県立病院(陽子線がん治療センター(陽子線治療研究所)) |
研究代表者 |
前田 嘉一 福井県立病院(陽子線がん治療センター(陽子線治療研究所)), 陽子線治療研究所, 研究員(医学物理士) (70448025)
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研究分担者 |
佐藤 義高 福井県立病院(陽子線がん治療センター(陽子線治療研究所)), 陽子線治療研究所研究部門, 研究員(医師) (10464067)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 医学物理学 / 陽子線治療計画 / 前立腺治療 / インターフラクショナル移動 / 画像誘導法 / 同室CT / 陽子線飛程 / 放射線影響 |
研究実績の概要 |
前立腺症例の画像解析と陽子線の体内飛程の変化解析について研究を行った。30症例の照射毎の同室CT画像において骨盤内臓器(前立腺、精嚢、膀胱、直腸)の輪郭を作成した。その10症例について3種の照合方法(骨、前立腺中心、前立腺直腸境界)を模擬し、臓器の形状や移動量の解析を行った。骨・前立腺中心照合の場合は、直腸壁の移動量が足側から頭側へ増大することが確認された。それに伴い前立腺の頭側の移動量は足側と比較して増大していた。精嚢についても前立腺と比較して移動量がより大きいことが判った。これは、恥骨前立腺靭帯や筋肉により前立腺の足側は固定され、頭側は直腸や膀胱の変化により移動量が増大することが原因と推測された。このため、前立腺直腸境界の照合により前立腺や精嚢の移動量が大幅に縮小することが判った。また、線量計算によって、この照合法の治療は直腸線量を抑えた治療が可能であることが示唆された。日々の直腸形状(体積)を一定にすることによりさらに移動量誤差を小さくできると考察した。 上記の解析に用いたCT画像を使って日毎の飛程変化を解析した。飛程情報は、CT値-水等価変化テーブルによって変換される水等価密度分布を作成し、その密度をビーム方向に沿って数値積分することによって得た。腫瘍標的の側面位置における飛程変化を3次元的に解析した。この数値解析は本年度に購入した物品を利用して行われた。その結果、最大は15mm程度の飛程変化が確認され、主に体輪郭の日毎の変化が原因であることが判った。この変化を吸収するため7-9mm程度の飛程マージンを治療計画作成に考慮することが必要であることが示された。また、より日々の飛程変化を少なくするため患者体の固定法が重要であることを示した。以上の結果について論文を執筆し、アメリカ医学物理論文誌への掲載が受理された。また、粒子線国際会議(中国)においても講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は前立腺および肝臓がん症例の各重要臓器の輪郭をそれぞれ30症例および10症例作成した。計画ではそれぞれ40症例および20症例としていた。また、前立腺症例については10症例の輪郭について各臓器の輪郭面の移動量を定量化し治療計画作成に必要なマージン値の参考値を算出した。この解析では当初20症例を計画していたが10症例においても3種の画像照合法(骨、前立腺中心、特に前立腺直腸境界)における直腸や精嚢の移動量や変形の解析結果は学術的に新規性があると認められたため、この症例数で論文を執筆し受理される運びとなった。また、本研究で得た成果を利用し当院の同室CT装置による前立腺がん陽子線治療の画像誘導精度・線量評価について論文を執筆し受理された。以上の論文作成作業により若干の研究計画の変更が生じた。 肝臓症例では10症例の輪郭情報によって解析方法を検討した。骨照合から横隔膜併進による移動量、横隔からの腫瘍位置の移動量について解析を行った。腫瘍は横隔膜の位置に対して最大1.3mm程度(標準偏差)の位置変化が確認された。また、下葉や左葉など横隔膜から離れている腫瘍位置の変化が横隔膜近傍にある腫瘍位置変化と異なる傾向が示された。 ビーム照射方向に依存した計画体積の生成方法について研究を行った。日毎の同室CT画像上で陽子線飛程を数値計算するためのソフトウェアの開発を行った。ビーム照射方向に沿って照射標的の前面部や終端部までの水等価厚を計算することが可能になり視覚的にその変化を確認することが可能となった。また、大量のCT画像について同様の数値計算を行い、その水等価厚変化について統計解析を行うことによってスメアリング値やマージン値の算出が可能となった。このソフトウェアを用いた前立腺治療におけるビーム飛程変化の解析方法及びその結果は上述した論文にて報告された。
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今後の研究の推進方策 |
前立腺がん症例40例について輪郭作成を継続する。1)40症例についてマージン算出症例群とマージン評価症例群を生成し幾何学的移動量および飛程マージンやビーム方向に依存した計画体積の算出法について検討する。10症例で得られた結果の検証も行いデータの健全性を評価する。2)患者毎の臓器移動や飛程の日々の変化を調べ変化のパターン分析とその因子分析を試みる。 肝臓がん症例20例について重要臓器の輪郭作成を継続する。前立腺症例の移動量解析で作成したソフトウェアを利用して、1)右葉上端部(横隔膜近傍)、下端部(腸及び胆嚢側)、門脈近傍、左葉上端部と胃接面の輪郭面の移動量を解析し定量化する。2)肝臓の周囲臓器の体積変化や移動量変化を調べて因子分析を試みる。 日々取得されたCTについて当院の治療計画装置で決定した照射パラメータに従って効率的に線量計算を行うソフトウェアを開発し線量解析を行う。このソフトは業者によって陽子線治療での臨床利用を目的として開発が進められている。このソフトを当院の陽子線治療装置の仕様にあわせる開発を業者に委託し研究用ソフトとして購入する予定である。平成29年度よりソフト開発のために必要な技術打ち合わせや一部の開発は実施していた。これにより本年度は開発に関わる期間を短縮し、当該ソフトを利用した線量解析の実施が早期に可能になる。 このソフトを用いて、前立腺および肝臓がんの症例について日々の臓器変化が線量分布与える影響を日毎のCT画像で線量計算を行うことによって解析する。この解析から前項でのべた治療計画時に設定するマージン値の評価や最適な照射方法の検討を行う。また、その日毎の線量データと臓器変化データを比較することによって、照射計画の適応・不適応を判断する条件を検討し、パターン化した照射計画や適合治療計画法の検討を行う。この検討において機械学習を利用した分析も試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
入札差金に相当する。
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