研究課題
本研究はエンテロウイルスD68(EV-D68)の流行や感染における重症化の要因を明らかにすることを目的としている。平成29年度は3歳から5歳の小児の保存血清を用いて2015年のEV-D68流行前後での抗体価の推移を観察した。血清は流行1年前17検体、流行6ヶ月前26検体、流行直後26検体、流行1年後21検体の計90検体を用いた。抗原は2015年の流行の際に分離されたウイルスを用いて中和法により抗体価を測定した。血清の幾何平均抗体価は流行前1年、6ヶ月でそれぞれ13.9倍と13.0倍だったが、流行直後には123.6倍に上昇し、明らかにEV-D68の流行があったことがわかった。しかし流行1年後の抗体価は64.3倍で流行前より明らかに高いものの、流行直後に比べ有意に低下していた。また、2015年に流行したウイルスはCladeBに属しており、それまで検出されていたCladeBと比較すると、ウイルス表面のVP1カプシド領域の抗原エピトープである98番目と148番目のアミノ酸に置換が認められたことから、ウイルスの抗原性に差がある可能性が示唆された。そこで、2010年に検出されたCladeBのウイルスを抗原に用い、2015年の流行直後に採取された3歳児の血清13検体の中和抗体価を比較した。その結果、2010年と2015年の2つのウイルス抗原に対する幾何平均抗体価はそれぞれ23.5倍、18.6倍でほぼ同等で血清抗体価では抗原性の違いは見られなかった。
3: やや遅れている
血清抗体価は小児だけでなく成人血清でも測定する予定であったが、今年度は小児だけの測定となった。
小児では流行後1年で抗体価が有意に下降することが明らかとなったため、次年度以降は成人の血清抗体価の推移にも焦点をあてる。また異なるCladeのウイルスに対する抗体価の差の有無にも注目する。
平成29年度に血清抗体価は小児だけでなく成人血清でも測定する予定だったが、今年度は小児血清のみだったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は平成30年度の助成金と合わせて小児・成人血清の両方で測定を行うための実験消耗品、試薬等に使用する計画である。
すべて 2018
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The Pediatric Infectious Disease Journal
巻: 37 ページ: 394-400
10.1097/INF.0000000000001768,