研究課題
膵がんは、近年増加傾向にあり、リスク要因の解明が重要な研究課題である。疫学研究では喫煙はリスク因子として確立しているが、糖尿病と膵がんの関連は双方向の因果関係が示唆されており、特に糖尿病関連因子が膵がんリスクに及ぼす影響や、糖尿病と膵がんに共通する遺伝的感受性の可能性について未解明の部分が多い。本研究の目的は、多施設症例対照研究で収集した疫学データや、膵がん全ゲノム関連解析(GWAS)による一塩基多型(SNP)のデータ、新規測定する血漿バイオマーカーを用いて、糖尿病と膵がんの関連を多角的に検討することである。計画の達成にあたり、初年度には、1) 症例と対照の継続収集や、収集した質問票データの整理及びデータセットの構築を行った。2)40-79歳の膵がん症例1052人と症例と同じ病院を受診したがん以外の病院対照804人について、糖尿病歴の有無や、罹病期間、糖尿病家族歴などの糖尿病関連因子と膵がんリスクの関連を検討した。統計解析にはLogistic regression modelを用いた。性、年齢、喫煙を補正後、糖尿病歴がない者と比べて、糖尿病歴がある者の膵がんリスクは約3倍に有意に上昇していた(オッズ比=2.75、95%信頼区間=2.05-3.69)。さらに、糖尿病の罹病期間で分析すると、罹病期間が3年未満の場合、リスクが約4倍であり、膵がんが糖尿病の原因である可能性が示唆された。3)糖尿病家族歴と膵がんリスクとの間に弱い正の関連が認められた。4)女性で妊娠中糖尿病と膵がんリスクの関連を検討した。
2: おおむね順調に進展している
糖尿病関連因子と膵がんリスクの関連については、多施設症例対照研究で収集したデータから、分析データセットを構築し、統計解析が完了したので、概ね順調に進展している。
第二年度(平成30年)には、1) 進行中の膵がんGWASのデータをもとに、肥満・糖尿病関連遺伝子多型が膵がんリスクに与える影響を検討する。GWASの対象者数を増やし、SNPデータに対して、Quality Control を実施後、膵がん症例(943例)と対照 (3057例)について統一した基準でimputationを実施する。Logistic regression modelを用いて、GWASで同定された肥満・糖尿病関連遺伝子多型と膵がんリスクの関連を検討する。 2) SNP-set解析法を用いて、糖尿病関連膵がんの遺伝子多型のグループを示す。3)新規測定する血漿バイオマーカー測定の必要性や、膵がんリスク予測モデルに含めるどうかを検討する。
未使用額が生じた理由として、初年度は主に質問票によるデータ解析を行ったことが挙げられる。未使用額と次年度助成金と合わせてDNA抽出や、SNPgenotyping、血清バイオマーカーの測定に使用する予定である。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (1件)
International Journal of Cancer
巻: 142 ページ: 290-296
10.1002/ijc.31047
お茶の水医学雑誌
巻: 65 ページ: 173-184