研究課題/領域番号 |
17K09102
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高梨 さやか 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (20645709)
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研究分担者 |
春名 めぐみ 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (00332601)
安戸 裕貴 山口大学, 大学院医学系研究科, 講師 (70422285)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ロタウイルス / ロタウイルスワクチン / 急性胃腸炎 / 母体由来因子 / 母乳 / ワクチン免疫原性 |
研究実績の概要 |
ロタウイルスは小児急性胃腸炎の代表的な原因ウイルスであり、2 種類のロタウイルス経口弱毒生ワクチンが開発された。出生後半年以内に接種するため、母乳中の分泌型IgA や経胎盤IgG など母体由来の免疫学的要素がワクチンの効果を大きく左右するが、わが国においては母体要因に焦点を当てた研究は無い。本研究では、①日本人褥婦における母乳中抗ロタウイルス中和活性の測定②母乳・母体血清中抗ロタウイルスIgA、IgG 抗体の定量的測定③児のロタウイルスワクチンへの免疫応答と①②との相関の検討を目的とする。 平成31年度は、前年度で回収終了した検体のうち、母乳(分娩5日以内採取の初乳と児のロタウイルスワクチン一回目接種時採取の成乳)に焦点を当てて実験的解析を行った。具体的には、母乳をロタリックスと中和後、サル胎児腎細胞であるMA104細胞に感染させ、抗VP6ウサギ抗体(1次抗体)とAlexa flour 594-Rabbit-IgG 抗体(2次抗体)を用いた蛍光アッセイ法にて80%感染制御価(NT80)を測定した。また、Rotarixの大量培養と精製を行ったものを抗原としたELISA法で母乳中の抗ロタウイルス IgA、IgG抗体価を測定した。39名分のNT80、抗ロタウイルス IgA、IgG抗体価は、初乳325±126(平均±標準誤差)、4351±994 arbitrary unit (AU)、470±183 AU、成乳23.3±5.9、561±185 AU、426±252 AUで、NT80、IgAは初乳において有意に高い値となった。初乳、成乳ともにNT80と抗ロタウイルス抗体価(IgA,IgG)との有意な相関は無かった一方、抗ロタウイルス抗体価においては、IgA、IgGともに初乳と血清間に有意な相関がみられた。ロタウイルスワクチン投与月齢の成乳は、ワクチン株中和作用は限定的といえる結果だったのに対し、初乳は中和活性、抗ロタウイルス IgA抗体を多く含み、ロタウイルス感染制御における初乳哺育の重要性が再認識された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、医学博士号取得直後の特任研究員を雇用し、ライフサイエンス研究機器支援室の蛍光顕微鏡を新たに使用開始した上で、中和活性測定系の最適化を行うことができた。しかし、便検体からのウイルスRNA抽出およびRealtime RT-PCRを行う予定であった研究協力者が、自己都合により急遽年度途中で退職し、これら実験の遂行が不可能となった。このため、補助事業期間延長承申請を行い、課題遂行を令和2年度まで延長することとなった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き下記の実験室的解析を行う。①Rotarix接種前後の児の血清中抗ロタウイルス IgA、IgG抗体価の測定 ロタリックスワクチン原液をMA104 細胞(サル胎児腎細胞)に播種し、大量培養後、sucrose cushion を敷いて超遠心にて精製し、ELISA プレートをコートする抗原として用いる。標準血清の段階希釈によるstandard curve を作成し、標準血清の100 倍希釈時のOptical density 値を100 としたarbitrary unit として抗体価を定量化する。②ロタリックス排泄期間中のウイルス定量 ロタリックス接種後、継時的に採取した便を対象として、ロタウイルスのNSP2 とVP4 遺伝子上に存在するロタリックス特異的遺伝子配列をターゲットとしたRealtime RT-PCR法(Gautam et al., 2014)を用いることにより、市中流行のwild type のコンタミネーションを排除してロタリックス株のみの定量を行う。 以下の3点に着目して全てのデータをまとめ、学会発表、論文作成を行う。 1)母体由来免疫物質と児のロタウイルスワクチン免疫反応の相関 2)母体由来免疫物質と児のロタウイルスワクチン株クリアランスの相関 3)初乳、成乳中における抗ロタウイルス中和活性、抗ロタウイルスIgA、IgG 抗体量の差異の比較
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次年度使用額が生じた理由 |
上記記載の如く、Realtime RT-PCR実験の遂行が不可能となり、予定していた試薬の購入を延期したため。次年度は、これら実験、および研究成果発表のための学会発表、論文作成費用に充てる予定である。
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