研究課題
80歳以上の人口は、1995年では約520万人であったのが2017年には約1074万人にまで増加している。しかし、80歳以上の高齢胃癌患者が有する身体的・社会的特徴、手術後の全生存率とその予測因子は明らかでなく、当該研究を実施した。京都大学を含む近畿地方における10の大学・基幹病院にて、2005年1月1日から2011年12月31日までに手術を実施した80歳以上の高齢胃癌患者を対象とした。既にカルテが破棄されている患者は除外した。各参加施設の倫理委員会の承認を得た後に、臨床情報と予後を後方視的に収集した。個人情報が削除された各施設のデータセットを統合し、データクリーニングを行った。固定されたデータセットを用いて、患者が持つ身体的・社会的特徴と、全生存率(OS)、他病死発生率を検討した。そして、OSをアウトカムとしたCox回帰モデルに術前情報を投入し、OSと関連する術前因子を検討した。対象患者は660人で、151人(23%)が85歳以上、26人(4%)が90歳以上であった。239人(35%)は既に配偶者と死別/離婚しており、107人(16%)が独居であった。585人(73%)はCharlson Comorbidity Index (CCI)が1以上の合併症(心筋梗塞や脳血管疾患など)を有していた。3年の全生存率は63%で、他病死が全死亡の42%を占めた。OSをアウトカムとしたCox回帰の結果、独居や内服薬数はOSと関連しなかったが、CCI:HR1.22、自立歩行困難:HR1.57などが腫瘍学的因子に加えてOSと関連した。現在、最終解析を実施中で、今後、学術雑誌にて最終結果を公表予定としている。
2: おおむね順調に進展している
当該研究課題は3つから構成されるが、そのうちの2つは順調に進展し、近く終了できる予定である。残りの1つについても基礎的準備は完了し、今後より進展していくことが期待できる。80歳以上の高齢胃癌患者を対象とした過去の研究のほとんどは、単施設の100例前後の報告であった。しかし、当該研究課題では、660人の10施設からの患者データを収集することができた。またそのデータは、独居、配偶者、低栄養、併存症など他のデータセットにはないユニークな情報を含んでおり、他病死の有無まで収集している。こうしたデータを利用して手術後の長期予後を予測するノモグラムを作成し、開腹胃切除と腹腔鏡下胃切除術の比較とともに、学術誌に結果を公表する予定である。また、多施設の共同研究者とともに、これまで複数回のリサーチ会議を実施した。同会議を通じ、当研究グループのためのweb-basedな前向きデータ収集システムを整備し、2018年4月より運用を開始した。同システムにより、デジタルCRFによる理論チェック下の前向きデータ収集とともに、患者から直接、ADL.生活の質の情報を収集することが可能になっている。
高齢者胃癌における手術後の長期生存を予測するノモグラム作成については、現在、生物統計学者と最終解析を実施しており、近い将来に学術論文を国際誌に投稿する予定としている。ノモグラムの予測能をあげる方策を現在検討しており、本検討が終了すれば、速やかに論文作成は終了できるものと考えている。高齢者胃癌における開腹胃切除と腹腔鏡下胃切除との比較についても、Propensity score法による解析を既に実施し、今後、最終結果を国際誌に報告する予定としている。ノモグラム作成を主論文と位置付けているため、本解析は副論文とする予定である。両論文とも過去にないサンプルサイズを有した妥当性ある観察研究の結果であり、高齢者胃癌領域における重要なエビデンスになるものと考えている。以上のように本研究課題の3つの課題のうち2つは、順調に進捗しており、2018年度中には終了するものと考えている。残りの1つの研究課題である「高齢者胃癌におけるフレイル」観察研究については、2017年度に完成できたweb-basedな情報収集システムを利用して実施する予定である。高齢者におけるフレイルを術前後で評価し、ADL、生活の質を含む、胃切除後の健康状態とフレイルとの関連を明らかにする予定としている。サンプルサイズを確保するため、対象患者を70歳以上とするか、研究期間を延長したいと考えている。サンプルサイズが当初の計画よりも縮小したとしても、これまで高齢胃癌患者を対象とした同様の多施設からの報告はなく、今後増加傾向にある当該患者に対する効率的で安全な手術の提供を検討する上で、貴重な報告になるものと考えている。
若干の端数がでた為。
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