研究課題/領域番号 |
17K09110
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
河口 剛一郎 鳥取大学, 医学部附属病院, 講師 (10403403)
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研究分担者 |
尾崎 米厚 鳥取大学, 医学部, 教授 (00224212)
八島 一夫 鳥取大学, 医学部, 准教授 (80314590)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 早期食道癌 / 内視鏡治療 / 予後 / がん登録 |
研究実績の概要 |
本研究は内視鏡治療をした食道癌症例で根治と診断された患者が、どのような原因で亡くなっているのかを、鳥取県内全域(東部、中部、西部の基幹病院各1施設の患者)で、後ろ向きと前向きの二つの群で検討するもの。予後調査時には、がん登録を利用して、脱落例がないように工夫する。 本研究の後ろ向き検討部分の、上記3施設で2008年度から2016年度に行われた食道癌内視鏡治療例は256病変が登録されたが、適応外病変(SM2以深、もしくは脈管侵襲陽性)が21病変含まれており、除外した235病変を解析した。235病変中、他癌死を16例、癌以外の他病死を16例認めたが、原病死は1例も認めていなかった。なお、同時期に施行された適応外病変の内視鏡治療病変19例では、10例が死亡し、原病死を6例に認めている。 本調査の契機となった、「根治的内視鏡治療をされた早期食道癌は他病死により予後不良」という仮説は、5年間の予後が確定した2014年度までの140症例162病変に於いて、食道癌による死亡は1例も無く、一方で絶対適応病変であるEP, LPM症例でも5年生存率は88%であった。これは、胃癌や大腸癌における粘膜内癌を内視鏡的に治癒切除した場合と比較すれば、低率である事が分かる。なお、相対適応病変も同様に5年生存率89%であった。死亡例は他臓器癌と癌以外の基礎疾患による死亡がほぼ半々であった。また、予後予測因子として、高齢とBMI低値が挙げられた。 前向き検討部分に関しては2017年度に治療した症例を全て利用するために、予後調査でもある事から2017年に内視鏡治療した症例で1年間の生存が確認できた症例を前向きにエントリーしていくこととし、2018年度から新たな症例の集積を始めた。2018年度からの3年間で(2017年度から2019年度治療例)新たに141例156病変の追加があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の後ろ向き検討症例の解析であるが、研究共同施設である、鳥取県東部の鳥取県立中央病院、中部の鳥取県立厚生病院に、引き続き症例登録とデータのアップデートを依頼した。検討期間がやや長く、治療後の年数が経過した症例も多く、データ入力の不十分な症例もあったが、予後調査に関しては脱落例0となった。現時点での2014年度までに治療された症例で予後確定が出来ていないのは179病変155症例のうち8症例で、全て鳥取大学の症例であり、今後はがん登録を利用してこれらの症例の予後調査を行う予定だが、半数は2012年以前の症例で治療時に高齢のため、比較的早期にかかりつけ医や紹介元に逆紹介した症例であり、完全に追跡出来るか不明なところがある。現在、適応外も含めた全内視鏡治療例の中で、5年間の予後調査が出来ていない2015-2016年度登録症例は約40例あり、これらの症例の予後調査を更新していくと死亡者数が増えリスク因子のデータが変わる可能性がある。これらの予後を確定させて、リスク因子をはっきりさせたい。 前向き研究の部分では、上記のように2017年度の症例を後ろ向き研究に入れるには観察期間が短く、しかしながら貴重な症例であるので前向き試験に組み入れるために研究計画を見直した。最終的には治療後1年存命の患者をエントリーすることでこれらの症例を登録できた。2018年度からの2年間で(2017年度から2018年度治療例)新たに76例82病変の追加があるが、2019年度の治療症例数は更に増加傾向で、1年間に65症例74例であった。3施設全てで症例数の増加があった。
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今後の研究の推進方策 |
後ろ向きのデータ解析については、現時点での2016年度までに集積されたコホートで、内視鏡的根治と判断された死亡例32例でも、2014年度までと同様の結果であり、5年後の予後を確立させて、リスク因子の再検討を行う。今後、検証されたリスク因子が下記の前向き検討集団でも当てはまるかを検証したい。 前向き検討については、症例登録と予後調査は順調に進んでおり、またがん登録全国調査の結果判明が遅くなる事が判明し、各施設が症例蓄積とそのフォローを厳重にするようにしている。前向き研究エントリー症例はまだ少ないものの、データ集積は予定通り行えている。現在検討している調査項目はかなり多くなっており、今後の登録症例でなるべくこれらの項目を落とさないようにすることが重要。前向き検討の3年間の内視鏡サーベイランスの施行率は死亡例を除くとほぼ100%であり、非常に良く追跡出来ている。更に、最近の症例は、絶対適応病変、特にCIS病変症例が増えてきており、これはハイリスク症例に対してIEE、拡大内視鏡等を駆使して慎重に観察していること、観察方法の均霑化などが寄与していることが推測される。 今までは当院を中心に症例の集積件数は増加傾向であったが、コロナ禍の中でも各施設で順調に症例を伸ばせている。今後更に大きなデータベースになる事が期待されるが、特に2年目、3年目のデータ追跡は、現状ではがん登録の情報は使用できないため、確実に脱落症例が無いようにする。最終的には5年後の予後(前向き試験では登録からは4年後)を正確に把握できる研究デザインであると考えており、県内の研究協力病院にも確実な症例登録をお願いしていく。前向き部分に関しては、研究の性格上、少なくとも2-3年経たなければ、結果は出ないものであることから、科研費の支給期間を超えても引き続き研究できるような体制を確立しておく必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
予後調査、リスク因子の検討という研究内容の性格上、昨年度までは研究成果は出ておらず、学会発表や論文投稿が出来ず、それに係る支出が殆ど無かったため。今年度は後ろ向き検討に関してはある程度の結果が出ているものの、本来国際学会も含めた発表を考えていたが、COVID-19で海外渡航が制限され、国内での学会発表もままならぬ状況の中(特にWebによる研究発表がメインになっている現状では)、どの程度の予算執行があるか見通しが立たない状況。
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