研究実績の概要 |
広島・長崎における初期放射線による固形がん超過相対死亡危険度は,放射線影響研究所によるLSS1950-2003, Report 14(Ozasa et al., Radiation Research, 177, 229-243, 2012)では,1Sv当たり42%と報告されている.一方,佐藤・冨田ら(長崎医学雑誌, 91, 197-201, 2016)は,広島大学原爆被爆者コホートデータABS1970-2010を用いて28%と報告している.これらの健康影響の評価に利用される初期被ばく線量は,原爆線量評価体系DS02)に基づいて算出されている.どちらのコホートデータにおいても,初期被ばく線量はガンマ線に10倍の中性子線を加えた線量として算出されており,この定数10は中性子線のガンマ線に対する生物学的効果比(RBE)と呼ばれている.
今年度は,このRBEを固定値とするのではなく,統計モデルにおける未知パラメータとして扱った.そして,ABSコホートデータを用いて,統計モデルに基づくRBEの最適化を試みた.RBEを変化させると,初期被ばく線量も変化するため,結果的に,健康影響の評価にも影響を与える.その影響についても定量的な検討を行った(佐藤・冨田ら, 広島医学, 71(4), 327-330, 2018).また,原爆被爆地である広島と長崎の2都市間の比較を,「(1)原爆被爆による健康被害リスク」および「(2)平和宣言にみる平和の経年変化」の2つの視点で試みた.(1)については冨田ら(広島医学, 71(4), 306-309, 2018)で,(2)については冨田・佐藤・和泉(広島医学, 71(4), 302-305, 2018)においてそれぞれ報告している.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,原爆被爆者における初期被ばく放射線による健康被害への影響のみならず,残留放射線や黒い雨などの放射性降下物などに起因する2次的な間接被ばくによる健康被害への影響も定量的に評価するための分析手法を,時空間疫学の視点から開発を行うことにある.平成30年度は,これまで検討してきた原爆被爆者における健康被害リスクの定量的にするための統計モデルの開発において,生物学的効果比(RBE)を固定値とするのではなく,統計モデルにおける未知パラメータとして扱い,ABSコホートデータを利用してモデルに基づきRBEの最適化を行った(佐藤・冨田ら, 広島医学, 71(4), 327-330, 2018; Satoh et al. Radiation Protection Dosimetry, 180(1-4), 346-350, 2018).以上のことから,研究はおおむね順調に進展しているといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
平成31年度(令和元年)は,平成30年度に検討した統計モデルに基づく生物学的効果比(RBE)の最適化を拡張することで,広島と長崎における原爆被爆による健康被害の都市差について検討をすすめる.具体的には,広島と長崎で中性子線の距離別分布の特徴が異なることに着目し,佐藤・冨田ら(広島医学, 71(4), 327-330, 2018)やSatoh et al.(Radiation Protection Dosimetry, 180(1-4), 346-350, 2018)と同様にRBEを変化させることで,LSSコホートデータにおける超過相対危険度の都市差について検討をすすめる.
|