研究課題/領域番号 |
17K09132
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
清原 康介 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (80581834)
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研究分担者 |
中田 研 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (00283747)
北村 哲久 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (30639810)
祖父江 友孝 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (50270674)
喜多村 祐里 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (90294074)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 院外心停止 / 学校 / 児童 / 生徒 |
研究実績の概要 |
研究初年度である2017年度は、独立行政法人日本スポーツ振興センター(JAPAN SPORT COUNCIL: JSC)の災害共済給付のデータと総務省消防庁の全国救急蘇生統計とを結合し、我が国の学校管理下で起こる院外心停止の発生状況から予後までの全体像が把握できる前向きレジストリを構築した。 本データベースを用いて、2009年1月~2014年12月の6年間に全国の学校管理下で発生した児童生徒(小学校・中学校・高等学校・高等専門学校)の院外心停止症例295件(心原性210件、非心原性85件)を解析した。我が国の学校管理下で起こる児童生徒の院外心停止発生率は生徒10万人あたり年間0.4件、すなわち生徒6000人あたり1件程度と推計された。学校管理下の心停止の多くは運動中に発生しており、約3分の2を占め、発生場所としては校庭や体育館が多かった。症例全体の約8割が心停止現場を目撃されており、約7割が周囲の人々により心肺蘇生をされており、約3分の1がAEDによる電気ショックを受けていた。また、心停止の約7割は心原性の心停止と考えられたが、定期的な心電図検査等で予見しうる可能性のあるものは1割に満たず、原因不明なものがほとんどであった。心停止を起こした児童生徒の1か月後の社会復帰割合は心停止全体の約3分の1であり、心原性心停止では約4割、非心原性心停止では約1割であった。 以上のとおり、研究はここまでおおむね順調に進んでおり、上述の研究成果を1報論文化し、2件の学会発表を行った。2018年度中には、2015年分のデータが利用可能になるため、これらをレジストリに組み込み、さらに分析を進める。具体的には、現場に居合わせた市民によるAEDの使用実態の把握および効果の検証、スポーツ中に起こった心停止の実態把握などについて分析を行い、論文化を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、まず、学校の管理下における児童生徒等の災害に対して医療費や死亡見舞金の支給を行うJSCの災害共済給付のデータと、我が国の院外心停止の全数登録データベースである総務省消防庁の救急蘇生統計を取得した。これらを個人結合し、我が国の学校管理下で起こる院外心停止の発生状況から予後までの全体像が把握できる前向きレジストリを構築した。 本データベースを用いて、2009年1月~2014年12月の6年間に全国の学校管理下で発生した児童生徒(小学校・中学校・高等学校・高等専門学校)の院外心停止症例295件(心原性210件、非心原性85件)を解析した。学校管理下で起こる児童生徒の院外心停止発生率は生徒10万人あたり年間0.4件、すなわち生徒6000人あたり1件程度と推計された。経年的に有意な増減は見られず、毎年約50件程度発生していると推定された。心停止の65%は運動中に発生しており、発生場所としては校庭や体育館が多かった。心停止の79%は発生を目撃されており、居合わせた市民によって心肺蘇生されたのは73%、AEDで電気ショックされたのは38%であった。心停止の原因としては、71%は他の臓器に明らかな原因がなく、心原性の心停止と考えられた。そのうち、肥大型心筋症、QT延長症候群、ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群といった定期的な心電図検査等で予見しうる可能性のあるものは合計で10%に満たず、原因が不明なものがほとんどであった。また、若年者に多いとされる心臓震盪による心停止も9件確認された。心停止を起こした児童生徒の1か月後の社会復帰割合は、全体では34%、心原性では43%、非心原性では12%であった。 本研究成果については、Circulation Journalに原著論文として掲載した他、日本公衆衛生学会学術総会および日本疫学会学術総会において学会発表した。
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今後の研究の推進方策 |
我が国の学校管理下で発生する児童生徒の院外心停止は年間50例程度であることから、リサーチクエスチョンに基づいて発生状況を把握し、予後因子を探索して結果を公表するためには、より多くの症例を集積することが重要である。2018年度中には2015年分の災害共済給付データが利用可能になるため、研究分担者や研究協力者らと協力して同年の救急蘇生統計と結合する(約50件の見込み)。これらをレジストリに組み込み、さらに分析を進める予定である。 心停止患者の救命のためには、周囲の人々による一刻も早い心肺蘇生術の開始とAEDを用いた電気ショックが必要である。そのため、2018年度は、現場に居合わせた市民による心肺蘇生の実施およびAEDの使用実態の把握とその効果検証を行う。また、心肺蘇生やAEDの使用といった救命行為が行われるかどうかは患者の性別や年齢によって異なる可能性がある。そこで、救命行為実施状況の性・年齢別の実態把握を行い、心肺蘇生法の普及啓発の一助とする。 また、学校管理下における児童生徒の心停止の大部分を占めるスポーツ中の心停止については、更に詳細な状況把握が必要である。そこで、スポーツ中に発生した心停止に限定して、患者特性、発生状況、予後の把握と関連因子の探索を実施する。 以上の研究成果は国内外の学術集会ならびに原著論文として発表する予定である。また、Researchmap やResearchgate といった研究者用ソーシャルサイトにおいて研究内容を紹介していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
学校管理下における児童生徒の心停止に対するAEDの使用状況に関する分析を行い、発表する予定であったが、予想よりも収集できた症例数が少なかったため、今年度の実施を見合わせた。そのため、学会参加、論文校閲、学術誌投稿に関わる費用に未使用額が生じた。
次年度、対象者を追加して十分な症例数を確保したうえで分析を行い、成果発表をすることとし、未使用額はその経費に充てることにしたい。
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