研究課題/領域番号 |
17K09156
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
須藤 誠 名古屋大学, 医学系研究科, 研究員 (40415427)
|
研究分担者 |
矢嶋 伊知朗 名古屋大学, 医学系研究科, 講師 (80469022)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | メラノーマ / 予防 / モデルマウス |
研究実績の概要 |
メラノーマは最も予後が不良な皮膚癌であり、近年、紫外線の影響で、メラノーマの増加率は全ての癌腫の中で第1位である。メラノーマの発症を予防する方法として、紫外線に対する環境対策は、オゾンホールの減少など徐々に進んでいる状況である。しかし、メラノーマに対する予防法の開発は遅れており、対策が必要である。 メラノーマは「未腫瘍期」「良性腫瘍期」「悪性腫瘍期」と多段階発癌で発症する場合も多い。我々は、癌遺伝子 RET の導入により、良性腫瘍からメラノーマに多段階発癌するオリジナルのモデルマウスを用いて、良性腫瘍から悪性腫瘍に悪性転化する際に、発現が変化する分子(発癌制御分子)に注目した。悪性腫瘍期の前段階で予防できれば、メラノーマの発症・進展を抑制することができると考えたからである。発癌制御分子をターゲットとした分子標的予防療法の開発と、予知・予防に有効なバイオマーカーとして実用化するための基礎データを固めることを目的にこの研究を行なっている。 1匹のRET-トランスジェニックマウスに発症した良性腫瘍とメラノーマを用いて、マイクロアレイ解析を行い、発癌制御分子の網羅的解析を行なった。いくつかの発癌制御分子候補について、培養細胞を用いて定量 PCR やウエスタンブロットで発現の確認を行なった。間接的ではあるが、モデルマウスを用いた発癌制御分子の網羅的解析により選別された分子は、メラノーマ細胞株でも発現が亢進していることが確認できた。siRNA や薬剤で発癌制御分子候補をノックダウンし、細胞増殖や細胞浸潤など、発癌機構に実際どのように関与しているかの解析を行なった。発癌制御分子候補のノックダウンにより細胞増殖や細胞浸潤が有意に抑制される分子もあった。今後、それらの候補分子にターゲットを絞って研究を推進していく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今の所、ほぼ当初の計画に則って研究が推進している。RET-トランスジェニックマウスを用いた発癌制御分子の網羅的解析で選別された候補分子について、培養細胞を用いて定量 PCR やウエスタンブロットで発現の解析を行なった。モデルマウスを用いた発癌制御分子の網羅的解析では、良性腫瘍とメラノーマの発現を比較したが、培養細胞では良性腫瘍の細胞株を得られなかった為、正常細胞株とメラノーマ細胞株による比較を行なった。メラノーマ細胞株間で発現の量に差は見られたが、正常細胞株より発現が亢進していることが確認された。このことから、間接的ではあるが、良性腫瘍からメラノーマに多段階発癌するモデルマウスを用いた発癌制御分子の網羅的解析は成功していると考えられた。 いくつかの発癌制御分子候補に対し、メラノーマ細胞株を用いて、siRNA および薬剤によるノックダウン実験を行なった。発癌機構に密接に関与する細胞増殖や細胞浸潤への影響を解析した。ノックダウンにより細胞増殖や細胞浸潤にあまり変化が見られない分子もあったが、細胞増殖や細胞浸潤が有意に抑制される分子もあった。現在、細胞増殖や細胞浸潤に影響をもつ分子にターゲットを絞って、どのように発癌機構に関与しているかを研究中である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、当初の計画に則って、ヌードマウスを用いた移植癌系やRET-マウスに発症した良性腫瘍に発癌制御分子候補のsiRNA/shRNA を投与し、発癌制御分子をノックダウンすることにより、細胞レベルでは無く、個体レベルでメラノーマへの悪性転化や転移を予防する効果があるのかを調べる予定である。これらの研究を遂行する上での課題は、マウスの腫瘍形成などに時間がかかることが予想される。また、siRNA/shRNA を個体に投与するには、細胞レベルに比べ、何倍もの量が必要である。また、それらを in vivo で投与する為の試薬が高価な為、ごく限られた個体数での予備的研究となることが考えられる。対応策としては、マウスを用いた研究と平行して、細胞増殖や細胞浸潤に影響をもつ発癌制御分子の培養細胞レベルにおける発癌機構の解析を進め、より効果の高い分子に絞って研究を進めることを考えている。また、市販の Tissue Arrayなどを用いて、発癌制御分子の発現が、他のメラノサイト系組織に比較してメラノーマ組織で増加していることをヒトで証明することも計画している。これにより、細胞レベルやマウスだけで無く、ヒトでの発癌制御分子の関与を示す事になる。 近年、同じモデルマウスを用いた研究で、皮膚腫瘍中にT細胞が浸潤することにより、細胞増殖が抑制されると言う報告がある。このT細胞の腫瘍中への浸潤にはケモカインやサイトカインの関与が示唆されている。ケモカインやサイトカインをはじめ、免疫細胞をリクルートするような分子にも注目して、免疫療法の開発も視野に研究を進めていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
物品費について、所属大学の備品・設備及び、所属研究室の消耗品を一部無償で使用させていただいた為、当初の予定額と使用額に大きな差が生じた。翌年度は、今後の研究遂行上、専門知識を有する研究者の参画が必要であるため、新たに分担者を加える予定であり、次年度使用額分は分担金に当てる予定である。使用目的としては、主に新たに加わる分担者の元で研究補助をしていただく方々への人件費や消耗品などに使用する予定である。
|