研究課題
我々は、癌遺伝子 RET の導入により良性腫瘍からメラノーマに多段階発癌するオリジナルのモデルマウスを用いて、良性腫瘍から悪性腫瘍に悪性転化する際に、発現が変化する分子(発癌制御分子)に注目し、発癌制御分子の網羅的解析を行なった。いくつかの発癌制御分子候補について、siRNA や薬剤で発現を抑制することで、細胞増殖や細胞浸潤など、発癌機構に直接関与する現象が抑制されることを観察した。また、予防医学の観点から、環境中の元素が生体に及ぼす影響を、アジア各国の飲料井戸水や工業廃水の元素分析の結果をもとに研究を行なった。細胞毒性や細胞に及ぼす元素の影響を、不死化角化細胞やメラニン産生細胞を用いて解析を行なった。元素の曝露により、細胞に形質転換を誘発する可能性が示唆された。骨髄由来サプレッサー細胞による一酸化窒素合成酵素 (NOS2) の高発現は、癌細胞の免疫回避に関与している。メラノーマでは、腫瘍部位に浸潤したγδ T細胞により、NOS2 は産生される。RET導入多段階発癌モデルマウスを用いた実験において、炎症性サイトカインが、γδ T細胞から NOS2 を発現誘導することが示唆された。腫瘍部位での炎症性サイトカインを中和することにより、γδ T細胞からの NOS2 と骨髄由来サプレッサー細胞を誘導するインターロイキン17 の発現が抑制された。腫瘍部位での炎症性サイトカインを抑制することにより、癌細胞の免疫回避を抑制出来る可能性が示唆された。マルチキナーゼ阻害剤である Dasatinib が、ヒト膵癌細胞の増殖および転移を阻害したという報告がある。Dasatinib 耐性細胞株を用いて、shRNA ライブラリーを用いた、ゲノムワイドスクリーニングを行なった。膵癌細胞が Dasatinib との併用により、合成致死に至る分子及びシグナル経路を同定し、薬剤投与方法を提案した。
2: おおむね順調に進展している
良性腫瘍からメラノーマに多段階発癌するモデルマウスを用いた発癌制御分子の網羅的解析により、いくつかの発癌制御分子候補を得た。それらの候補分子の中には、メラノーマ細胞株の細胞増殖や細胞浸潤に、実際関与する分子が含まれていた。発癌制御分子候補の発現を抑制する siRNA 様試薬の開発を検討中である。開発途上国では、飲用井戸水中や工業廃水の元素汚染により、健康リスクが高まっているという報告がある。疫学調査及び細胞毒性や細胞に及ぼす影響の解析を行なった結果、ヒ素、クロム、バリウムで細胞に形質転換を誘発する能力があることが示唆された。現在、他の元素についても不死化角化細胞やメラニン産生細胞を用いて、細胞毒性や形質転換、癌化など元素が細胞に及ぼす影響を解析中である。また、飲用井戸水や工業廃水中から有害な元素を除去することを目指し、開発途上国でも使用しやすい、安価で再生可能な浄化材の開発も現在行なっている。癌細胞は、多様な機構を駆使して生存、増殖しているので、元素、分子、ケモカインやサイトカインなど免疫関連タンパク、酵素、シグナル経路、薬剤投与方法など幅広いアプローチで研究し、癌細胞を予防、抑制できる方法を探求していきたい。
今後の研究の推進方策としては、細胞増殖や細胞浸潤に影響をもつ発癌制御分子の培養細胞レベルにおける発癌機構の解析を進め、より効果の高い分子に絞り、発癌制御分子候補の発現を抑制する siRNA 様試薬の開発を進める予定である。これらの研究を遂行する上での課題は、腫瘍部位へのドラッグデリバリーシステムの構築と細胞への取り込みである。siRNA は細胞に取り込まれなくては発現抑制が出来ない。予備的研究となるが、ヌードマウスを用いた移植癌に直接 siRNA 様試薬を投与するなどの方法で発癌制御分子をノックダウンすることによる効果を検証する予定である。課題に対する対応策としては、発癌制御分子候補の発現機構やシグナル経路を解明し、既存の small molecule drug のライブラリーを活用したスクリーニングにより、siRNA 様試薬に換わる低分子薬剤を探索することも解決策の一つとして考えている。腫瘍部位周辺の炎症性サイトカインの発現が、癌細胞における免疫回避に寄与していることが示唆された。ケモカインやサイトカインをはじめ、癌細胞の免疫回避を手助けするような細胞や環境にも注目して研究を進めていく予定である。
研究代表者の所属研究機関の変更があった為、思うように実験が進められない期間があり、物品の購入や外注予定の費用が使用できなかったので、次年度使用が生じた。次年度は、補助事業期間の最終年度に当たるので、外注などアウトソーシングも活用して、結果が出せるように助成金を使用する予定。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 5件)
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