研究課題
妊娠期における子の発達環境が成人後の疾患リスクに影響を与えるという概念(DOHaD説)が生活習慣病領域において報告され、近年発がんにおいても提唱されている。これまでに我々は有機ヒ素化合物ジメチルアルシン酸(DMA)の妊娠期曝露により、雄仔マウスに対する肝および肺発がんリスクが増加することを明らかにした。本研究では、DMAの妊娠期曝露による肝および肺発がんのメカニズムについて検討した。妊娠した母マウスに対して妊娠第8日から第18日まで、DMAを0、200 ppmの用量で飲水投与し(経胎盤曝露)、雄性新生仔および6週齢まで飼育した仔(6週齢仔)より肝および肺を採取し解析した。DMA経胎盤曝露新生仔の肝組織にはDMAが存在し、胎盤を介して肝内に蓄積していることが判明した。また、遺伝子発現解析の結果、TP53およびc-mycなどのがん関連遺伝子の活性化が予測された。一方、DMA曝露新生仔の肺組織においてもDMAおよびその代謝物が蓄積していた。また、DMA曝露新生仔肺組織において、ヒストンH3K9me3の増加が確認された。さらに、ヒストンH3K9me3を標的としたChIP-seq解析を行った結果、DMA曝露群による遺伝子のヒストンH3K9me3との結合に変化を生じた。マイクロアレイ解析と共通して変動した遺伝子を選出した結果、Atp6v0a4およびKrt8を同定した。両遺伝子は新生仔のみならず、6週齢仔でも発現上昇を示した。特にKrt8はDMA経胎盤曝露で誘発したマウス肺腫瘍においても発現上昇を認めた。以上より、DMAは妊娠期曝露により胎盤を介し標的臓器に蓄積して発がんに寄与し、がん関連遺伝子の活性化や、ヒストンメチル化などエピジェネティックな変化を示すとともに、その変化は成熟後にも維持されることが判明した。これらはヒ素の発がんリスク評価の指標として利用できる可能性を示した。
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