研究実績の概要 |
アスベストの使用は国際的に法規制され全面禁止となったが、アスベスト含有建材を使用した建築物が産業界や生活環境に大量に存在することから、今後も一般社会において曝露リスクが長期間継続されることが推測されている。現在、アスベスト曝露からの健康障害防止のため、環境管理等による曝露軽減対策がとられているが、健康被害の根絶には至っていない。アスベスト曝露からの健康被害のなかで最も深刻な問題として悪性中皮腫の発生があり、いまだ悪性中皮腫に対する有効な治療法は確立されていない。近年、米国や我が国において、悪性新生物の新たな非侵襲性の近赤外蛍光分子イメージングを用いた早期診断、さらに、近赤外光線免疫療法による治療法が注目されている。一方、アスベスト曝露による悪性中皮腫に対する当該手法による検証は殆ど実施されていない。 本研究では、ヒトやラット悪性中皮腫の細胞を用いて、近赤外光線免疫療法に対する基礎的実験を検討し研究成果を獲得した。癌幹細胞表面マーカーである接着分子CD44を特異的に認識するモノクローナル抗体および対照群としてIgGとPhthalocyanine の誘導体である近赤外光蛍光色素IRDye700DX(以下IR700, LI-COR社)の複合体(CD44-IR700およびIgG-IR700)を合成し、ヒト悪性中皮腫細胞株、不死化中皮細胞株およびCD44高発現させた不死化中皮細胞株にCD44-IR700 (0-10 micro g/mL) 添加し、37℃で1-6h静置後、690nm付近の近赤外光線を0-6J/cm2照射し細胞傷害性を評価した。近赤外光線照射の波長および照射時間による細胞毒性には量―影響関係を確認したことから、近赤外光線免疫療法はアスベスト曝露からの悪性中皮腫に対して侵襲性を軽減した新たな治療法としてさらに検証すべき研究であることを確認した。
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