研究課題/領域番号 |
17K09170
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
内藤 忠相 川崎医科大学, 医学部, 助教 (50455937)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | インフルエンザウイルス / ワクチン開発 / 抗原変異 / ウイルスポリメラーゼ / 遺伝子変異 / 免疫逃避 / ウイルスライブラリー |
研究実績の概要 |
季節性A型インフルエンザウイルスは頻繁に抗原変異が起こるため、流行状況予測から選定されたワクチン株と実際の最新流行株との間で抗原性が一致せず、ワクチンによる重症化阻止効果が著しく低下する場合がある。この問題を解決するため、次シーズン以降の流行株に起きる抗原変異部位をあらかじめ推測できる「インフルエンザウイルス未来流行株予測システム」の開発を試みる。そして、新規抗原変異株のウイルス性状を解析することで、毎年の流行株と抗原性が一致したワクチン株選定を可能にするための基盤情報を蓄積する。 インフルエンザウイルス実験室株であるA/Puerto Rico/8/1934株(PR8株)を用いて、逆遺伝学的手法によりウイルスRNAポリメラーゼのPB1サブユニットを改変し、ゲノム複製過程において変異導入効率を制御するアミノ酸部位(PB1-Tyr82残基)を同定した。PR8株のPB1-Tyr82残基を他のアミノ酸に置換した組換えウイルスを作製し、次世代シーケンサーを用いて変異導入効率を計算した結果、Tyr82残基をAsn、Ile、Val、またはGlyに置換した組換えウイルスは、野生型PR8株より2倍以上変異が入りやすい事を明らかにした。プラークアッセイを用いて各PB1-Tyr82変異株の増殖性を検討した結果、プラークサイズが不均一となり、増殖活性が多様なウイルス集団を形成している可能性が示唆された。PB1-Tyr82変異株は、ウイルスゲノムに高頻度にランダム変異が挿入された「変異ウイルスライブラリー」を形成している事が考えられ、今後はウイルスライブラリー内に抗原変異を伴う未来流行株が含まれているかどうかの検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究成果より、インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼであるPB1タンパク質のTyr82残基が、ゲノム複製過程において変異導入効率を制御する機能部位であることを明らかにした(論文投稿準備中)。さらに、近年にヒトから単離されたインフルエンザウイルスA(H1N1)pdm09臨床分離株から、主要抗原となるヘマグルチニンとノイラミニダーゼの全長ウイルス遺伝子をクローニングし、加えてPB1遺伝子のTyr82残基を改変することにより、「流行株に由来する変異ウイルスライブラリー」を作出した。今後は、ウイルスライブラリーと患者血清を用いて、抗原変異を伴う未来流行株のスクリーニング解析を実施する予定であり、本研究課題は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
1、患者血清を用いた免疫逃避ウイルスの単離:「流行株に由来する変異ウイルスライブラリー」を患者血清と反応させることで、抗ウイルス抗体によって中和されなかった「免疫逃避ウイルス」をプラークアッセイにより単離する。 2、免疫逃避ウイルスのゲノムシーケンス解析による新型変異株の単離:すべての免疫逃避ウイルスについて、次世代シーエンサーを用いて全ウイルス遺伝子の配列解析を行い、抗原変異に関与したウイルスタンパク質とアミノ酸部位を同定する。そして、過去に流行した全世界の臨床分離株と相同性比較解析を行うことで、未来に流行する可能性がある新型変異株を見出す。 3、未来流行株に対するワクチン種株の作製と評価:新規抗原変異株に対応するワクチン種株を作製し、感染防御効果を検討すると同時に未来流行株ワクチンとして応用可能かどうかを検討する。現行の不活化インフルエンザワクチン製造株の選定条件として、①ウイルス増幅時に抗原部位に変異が導入されず、②ウイルスが高増殖性であり、さらに③ウイルス抗原タンパク質が高収率で精製できる必要がある。未来流行株に対するワクチン候補株について、以上の選定条件を満たすかどうかを調べる。
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