研究課題
本研究は,日本人労働者を対象に,職の不安定性が労働者の心身の健康(精神的健康および冠動脈疾患の危険因子となる各種生理指標)に及ぼす影響を明らかにするとともに,これらの関連を緩衝する仕事の資源を明らかにすることを目的としている。今年度は,製造業(2事業場)に勤務する労働者を対象にフォローアップ調査(WEBによる自記式調査)を実施した。ベースライン調査に回答した224名(昨年度の実施状況報告書では324名と報告したが,誤植であることを確認した)のうち,フォローアップ調査に回答した169名(追跡率:75%)を対象に,職の不安定性と心理的ストレス反応およびワーク・エンゲイジメントとの関連に対する仕事の資源(仕事のコントロール,上司の支援,同僚の支援,役割明確さ,金銭・地位報酬,尊重報酬,手続き的公正,相互作用的公正,ソーシャル・キャピタル)の修飾効果を縦断的に検討した。その結果,フォローアップ時の心理的ストレス反応に対する,ベースライン時の職の不安定性と上司の支援および手続き的公正の有意な交互作用が認められ,これらの仕事の資源が充実していると知覚している者は,不足していると知覚している者に比べ,職の不安定性と心理的ストレス反応との関連が弱かった(すなわち,職の不安定性と心理的ストレス反応との関連に対する上司の支援および手続き的公正の有意な緩衝効果が認められた)。一方,フォローアップ時のワーク・エンゲイジメントに対しては,ベースライン時の職の不安定性と仕事の資源との間に有意な交互作用は認められなかった。以上,小規模な縦断研究ではあるものの,職の不安定性と心理的ストレス反応との関連を緩衝する可能性がある仕事の資源を同定することができた。今後,各種生理指標を含むデータベースを構築するとともに,既存のデータを用いた解析も含め,研究成果を公表していく予定である。
2: おおむね順調に進展している
調査対象企業の選定に遅れが生じていたが,製造業(2事業場)において調査への参加同意が得られ,ベースライン調査~フォローアップ調査における一連の計画(調査の準備・実施,データ解析,個人・職場への結果返却)を滞りなく遂行し,縦断データによって,職の不安定性と心理的ストレス反応との関連を緩衝する仕事の資源を明らかにすることができたことから,おおむね順調に進展していると考えられる。一方で,各種生理指標のデータ取得と研究成果の公表が遅れているため,今後,データベースの構築と研究成果の公表を進めていく必要がある。
次年度は,調査対象企業から各種生理指標のデータを取得し,データベースを完成させるとともに,既存のデータを用いた解析も含め,研究成果を国内外の学会や国際英文誌で公表していく予定である。
当初,紙媒体による自記式調査を想定し,郵送やデータ入力等の事務作業にかかる費用として,人件費・謝金を計上していたが,調査対象企業の希望によりWEB調査で実施することになり,人件費・謝金の支出が発生しなかったこと,また,研究成果の公表が遅れたことから,次年度使用額が生じた。次年度は,主に研究成果報告(国内外の学会発表にかかる旅費および参加費,論文執筆にかかる英文校正費や論文掲載料)として使用する予定である。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (10件)
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