研究課題/領域番号 |
17K09173
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
宮内 博幸 産業医科大学, 産業保健学部, 教授 (90784025)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 拡散型サンプラ- / 個人曝露濃度測定 / ウェアラブルデバイス / リスクアセスメント / 有害化学物質 |
研究実績の概要 |
本研究では、捕集剤に繊維状活性炭(ACF)を使用し、安価で取り扱いが簡単、かつ、安全なウェアラブルデバイス型のシート拡散型サンプラ-を開発することを目的とした。トルエンの捕集性能の解析結果より、捕集速度Sampling Rate(SR)は4.4 ng/(ppm・min)となり、濃度4 ppm~20 ppm、温度25℃、湿度40%にて、4時間のサンプリングが可能であった。自然環境因子による捕集性能変動の解析結果は、温度20~35℃、相対湿度約20~80%、風速0.05~0.3 m/sの範囲では捕集可能で、添加回収試験結果よりは添加量12.9マイクロg~258.8マイクロgで回収率90%以上と良好であった。サンプリング後の保存は冷蔵で約1週間可能であった。本サンプラ-による、防護手袋の防護性能評価への応用として、試験手袋の外側と内側の手模型表面の3箇所へサンプラーを貼り付けた。トルエン蒸気内に設置し、サンプラーに吸着した平均トルエン濃度を求め、内外の濃度比より透過性能を評価した。その結果、EVOH、ポリウレタン(厚手)、ニトリルゴム(厚手)製は、外側に対する内側のトルエン濃度比は1%以下と低濃度で、手袋素材の耐透過性が示された。本サンプラーによる、防護手袋の防護性能評価への応用の可能性が示唆された。さらに、実際に防毒マスクを使用している際の、面体からの漏れ率評価への応用を試みた。本サンプラーを防毒マスク面体の内側と外側に貼り付けてトルエンの濃度比を求め、漏れ率とした。漏れ率は、濃度が低いほど漏れ率が高い傾向が認められた。曝露濃度が低いと思われる作業時は、マスクの密着性確認作業が軽視されたことも原因の一つと推定された。本サンプラーを防毒マスクの面体内外に貼り付けて濃度比を測定することより、マスクの漏れ率計測への応用の可能性が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度の計画である、①サンプラ-に使用する素材と構造の決定、②捕集性能の解析、③自然環境因子による捕集性能変動の解析についてはほぼ完了した。平成30年度以降は、実際に有機溶剤を使用している作業者へ本サンプラ-を装着し、曝露濃度測定を実施して捕集性能の検証を行う。また、現場への応用として、使用されている防護手袋の防護性能評価や、防毒マスクの密着性確認のための測定を行う。さらに研究における測定や分析については研究協力者(大学生)の協力を得ながら、研究成果について学会発表や論文の作成を行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、サンプラ-の開発から実際に有機溶剤を使用している労働者に装着して曝露濃度を測定し、現場での実用性を確認することである。今後はキシレンを取り扱う事業所と連携し、これらの事業所の作業者へ開発したサンプラ-を装着し、個人曝露濃度の測定を行う。なお、アクティブサンプラー法や、市販されているパッシブサンプラ-法の数種類を用いて同時に測定し、その測定結果を比較検討することにより、本方法の精度を確認する。さらに使用している防護手袋や防毒マスクの内外へ貼り付けてサンプリングをしてもらい、使用している手袋やマスクの防護性能評価への応用を検証する。そして最終的には事業所の全作業者や工程別の曝露リスクの評価を実施し、リスクアセスメント実施ツールとしての有用性を証明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は基礎的な研究を中心に行った。実験が順調であったため、その他に分類される消耗品代などの経費が少なくて済んだため、次年度使用額が生じたと思われる。次年度では実際の現場での測定も行うため、残金は郵送費や消耗品として使用する予定である。
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