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2018 年度 実施状況報告書

ナノ材料による肺腫瘍発生を予測する新規システムの開発

研究課題

研究課題/領域番号 17K09177
研究機関産業医科大学

研究代表者

和泉 弘人  産業医科大学, 産業生態科学研究所, 准教授 (50289576)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワードナノ材料 / 3DマイクロX線CT検査 / 肺炎症 / 持続炎症 / エクソソーム / miRNA
研究実績の概要

工業用ナノ材料の有害性を評価し適切に管理することは、労働者が安心・安全に作業するために必要不可欠である。今後、急速に増加する新規ナノ材料に対して、簡便な投与法の開発、再現性の高い有害性評価法の開発が求められる。本研究では、有害性の中でも肺腫瘍の発生を早期に予測するシステムの開発を目指すが、腫瘍発生にはこれに先立つ炎症が密接に関わっていることから、炎症の持続を評価・予測することが重要であると考えている。これまでに、4種類のナノ材料をラットの気管内に注入し、有害性の高い酸化ニッケルと酸化セリウム投与群は持続炎症を、有害性の低い酸化亜鉛と二酸化チタン投与群は一過性の炎症を起こすことを報告している。そこで、一昨年度に再度、酸化ニッケル、酸化セリウム、酸化亜鉛、二酸化チタンをラットの気管内に注入し、本年度にかけて定期的に3DマイクロX線CT検査と尾静脈から採血を実施した。ただし、実験開始時はラットを2年間観察する予定であったが、対照群を含め半数近くが死亡した1年8カ月後に全ラットの解剖を実施した。定期的に撮影した3DマイクロX線CTの解析から、以前の報告と一致して酸化ニッケルと酸化セリウム投与群では炎症が持続し、酸化亜鉛と二酸化チタン投与群では炎症は一過性であることが確認できた。定期的に採取した血液の解析として、エクソソーム内包microRNA(ExoRNA)を用いたマイクロアレイ解析を実施した。ExoRNAの抽出には2つの異なるキットを組み合わせた。単離したエクソソームは動的散乱法、バイオアナライザーによって確認した。ナノ材料の気管内注入による肺炎症が一過性か、持続性かはおおむね1ヶ月から3ヶ月で判定できることをこれまで報告しているため、ExoRNAを使ったマイクロアレイ解析は1ヶ月後の血液を使って実施した。現在、ナノ材料による肺炎症がExoRNAで評価できるか検討している。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

予定していた解剖の実施:以前、ナノ材料である酸化ニッケル、酸化セリウム、酸化亜鉛、二酸化チタンをラットの気管内に注入および全身暴露した結果から、酸化ニッケルと酸化セリウムは有害性が高く、酸化亜鉛と二酸化チタンは有害性が低いと報告した。初年度に、これら4種類のナノ材料と溶媒を再度ラットの気管内に注入した。当初はラットの寿命である2年後まで観察する予定であったが、1年8ヶ月までに半数が死亡したためこの時点で全ラットの解剖を実施した。有害性高いナノ材料の一部で肉眼的に肺腫瘍を確認している。
ラット肺の3DマイクロX線CT解析:以前報告した病理解析や肺胞洗浄液解析の評価と一致して、有害性の高い酸化ニッケルと酸化セリウム投与群では肺のCT画像でも十分に炎症が確認できた。一方、有害性の低い酸化亜鉛と二酸化チタン投与群ではCT画像で一時的な炎症を観察したが、速やかに軽減した。興味深いことに、有害性の高い酸化ニッケルと酸化セリウム投与群の一部では炎症が軽減した後、肺線維化と思わる所見がCT画像で観察され、時間の経過とともに増強した。現在、これらの結果を定量化し評価する方法を検討している。これらの成果は、動物を解剖しなくても肺の炎症を3DマイクロX線CT検査で評価できる可能性を示唆している。
血液を用いたエクソソーム内包miRNA(ExoRNA)の解析:既存のキットを組み合わせて血液からエクソソームを単離し、RNAを抽出する簡易な方法を開発した。4種類のナノ材料をラットの気管内に注入した1ヶ月後の血液からExoRNAを抽出し、マイクロアレイ解析を実施した。肺炎症がExoRNAで評価できるか検討した結果、おおむね評価できることが確認できた。

今後の研究の推進方策

4種類のナノ材料と溶媒を投与したラット肺の3DマイクロX線CT検査と尾静脈からの採血を1年8カ月まで経時的に実施し、完了している。今後はこれらの試料を用いた解析を中心に進めていく。
肺の病理解析:1年10ヶ月後に解剖したラットの左肺、および途中で死亡したラットの左肺の病理組織学的解析から腫瘍の有無を評価する。
ラット肺の3DマイクロX線CT解析:現在、ナノ材料の気管内注入後に観察される肺炎症を定量化する解析は2カ月まで終了しているので、本年度に全画像の定量化を行う。
血液を用いたエクソソーム内包miRNA(ExoRNA)の解析:ナノ材料を注入した1ヶ月後のラット血液のExoRNAを用いたマイクロアレイ解析は終了している。有害性が高いナノ材料の場合、肺炎症は最低でも3ヶ月は持続するため、3ヶ月後の血液から抽出したExoRNAを使いマイクロアレイ解析を行う。1ヶ月後と3ヶ月後の結果を比較し、肺炎症を評価できるExoRNAを2から3つに絞り込む。これらのExoRNAの経時的な発現をリアルタイムPCRで評価し、ExoRNAが肺炎症を評価できるか検討する。3DマイクロX線CT解析とExoRNA解析を総合的に評価し、この2つの解析結果で肺炎症を評価するシステムの開発を目指す。実験が順調に進めば、今回使用したラットおよび種が異なるラットを用いて再度気管内注入試験を実施し、システムの有用性を検証する。

次年度使用額が生じた理由

前年度までに研究に大きな問題は発生せず、解析が順調に進んだため、消耗品費に少額の余剰金が発生した。最終年度の実験に余剰金を使用したい。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2018

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)

  • [雑誌論文] Usefulness of myeloperoxidase as a biomarker for the ranking of pulmonary toxicity of nanomaterials2018

    • 著者名/発表者名
      Tomonaga Taisuke、Izumi Hiroto、Yoshiura Yukiko、Myojo Toshihiko、Oyabu Takako、Lee Byeong-Woo、Okada Takami、Marui Takashi、Wang Ke-Yong、Kubo Masaru、Shimada Manabu、Noguchi Shingo、Nishida Chinatsu、Yatera Kazuhiro、Morimoto Yasuo
    • 雑誌名

      Particle and Fibre Toxicology

      巻: 15 ページ: 41

    • DOI

      10.1186/s12989-018-0277-x

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 工業用ナノ材料の有害性評価 -免疫染色法の有用性-2018

    • 著者名/発表者名
      森本 泰夫, 和泉 弘人, 吉浦 由貴子, 藤澤 有里, 友永 泰介, 丸居 誉, 岡田 崇顧, 大藪 貴子, 明星 敏彦, 西田 千夏, 矢寺 和博
    • 学会等名
      第91回日本産業衛生学会
  • [学会発表] ナノ材料の肺有害性を評価するmicroRNAの探索2018

    • 著者名/発表者名
      和泉 弘人, 吉浦 由貴子, 藤澤 有里, 丸居 誉,友永 泰介, 大藪 貴子, 岡田 崇顧, 明星 敏彦, 森本 泰夫
    • 学会等名
      第91回日本産業衛生学会
  • [学会発表] 酸化タングステンの吸入ばく露試験による有害性評価2018

    • 著者名/発表者名
      丸居 誉, 吉浦 由貴子, 和泉 弘人, 友永 泰介,藤澤 有里,西田 千夏,矢寺 和博, 森本 泰夫
    • 学会等名
      平成30年度日本産業衛生学会九州地方会学会

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公開日: 2019-12-27  

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