研究課題
工業用ナノ材料の有害性を評価し適切に管理することは、労働者が安心・安全に作業するために必要不可欠である。本研究では、有害性の中でも肺腫瘍の発生を早期に予測するシステムの開発を目指すが、腫瘍発生にはこれに先立つ炎症が密接に関わっていることから、炎症の持続を予測することが重要であると考えている。これまでに、4種類のナノ材料をラットの気管内に注入し、有害性の高い酸化ニッケルと酸化セリウム投与群は持続炎症を、有害性の低い酸化亜鉛と二酸化チタン投与群は一過性の炎症を起こすことを報告している。そこで、2017年度に再度、酸化ニッケル、酸化セリウム、酸化亜鉛、二酸化チタンと対照群として蒸留水をラットの気管内に注入した(各群9匹、合計45匹)。2018年度にかけて定期的に3DマイクロX線CT検査と尾静脈から採血を行い、注入して1年8カ月後にすべてのラットを解剖した。ただし、18匹はこれ以前に死亡したため肺を摘出して保存した。病理解析から有害性の高い酸化ニッケルを投与した3匹に腫瘍(扁平上皮癌、浸潤性粘液腺がん、腺がんの前がん病変)が観察された。2019年度は、3DマイクロX線CTの画像から3か所の肺の横断面を対照群と比較して炎症の面積を算出し平均化した(炎症値)。各群のなかで炎症値が高い順に4匹を選択し、血液内のエクソソームからmicroRNA(ExoRNA)を精製してマイクロアレイ解析を実施した。得られた結果を有害性あり(8匹)と有害性なし(12匹)に分別し、JMP14proの判別分析(機械学習)で解析した結果、誤判別の割合は15%(偽陽性2匹、偽陰性1匹)であった。これらの成果は、定期的な3DマイクロX線CT 画像の結果とExoRNAの発現プロファイルによる機械学習を活用することでナノ材料の有害性予測が可能であることを示唆しており、実験動物の削減に貢献できると考えられる。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Journal of Occupational Health
巻: 62 ページ: e12117
10.1002/1348-9585.12117