研究課題
現在、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ（ESBL）産生菌の流行に伴う多剤耐性化やニューデリーメタロ-β-ラクタマーゼ1（NDM-1）産生菌の出現などの問題が国際的に深刻化している。プラスミド上に存在するESBL/NDM-1産生遺伝子は、食中毒起因細菌である下痢原性大腸菌の間で伝播・拡散していく危険性を持つ。しかしながら、現在のところ、国内のESBL/NDM-1産生下痢原性大腸菌に関する実態・全体像は不明な点が多い。本研究では、全国的な規模におけるESBL産生腸管出血性大腸菌EHECの分布・拡散状況ならびに細菌学的特徴の実態把握と耐性機構の詳細な解析を行い、薬剤耐性病原性大腸菌について、今後の方針ならびに対策の基盤となる科学的データを提示することを目的とする。我々は、これまでに一般社会におけるEHECの健康保菌者の割合を明らかにするため、健常者47万人以上を調べ、EHEC保菌者（398名）の発生は10万人あたり約84.2人であることを示した。平成29年度は、これら健康保菌者由来EHEC 398株について、ESBL産生株のスクリーニングを行い、国内におけるESBL産生EHECの分布状況ならびにその細菌学的特徴（血清型、ベロ毒素型、保有する病原因子の種類等）について解析を行った。ESBL産生株のスクリーニングを行った結果、2株のセフォタキシム（CTX）耐性EHECが検出された。ESBL型別および塩基配列を調べた結果、EHEC O25 VT2株はCTX-M8 group、EHEC O15 VT2株はCTX-M2 groupに属することが明らかとなった。これらの知見は、健康保菌者由来EHECにおける国内におけるESBL産生EHECの拡散状況ならびにその細菌学的特徴の実態を明らかにするための科学的基盤の構築に寄与することが期待される。
2: おおむね順調に進展している
当初のとおり、健常者由来のEHECについてESBL産生株のスクリーニングを行い、2株のESBL型別解析対象株が得られた。これら対象株を用いて薬剤感受性試験ならびにESBL確認検査を実施した後、ESBL型別および塩基配列を決定することができた。その結果、国内におけるESBL産生EHECの分布状況ならびにその細菌学的特徴（血清型、ベロ毒素型、など）を解析するに至った。上記の現状を考え合わせて、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
現在のところ、全国的な規模におけるESBL産生下痢原性大腸菌の拡散状況や細菌学的特徴を把握するための科学的データは十分でない。したがって、一般社会（健常者）におけるESBL産生EHECの分布・拡散状況ならびにその細菌学的特徴について詳細な把握を行うため、検出された健康保菌者由来ESBL産生EHECの細菌学的特徴のさらに詳細な解析を行うとともに、系統解析を実施する。
（理由）当初の計画ではESBL型別および塩基配列決定のため、βラクタマーゼ遺伝子については、シークエンス用プライマー設定及びシークエンス解析を平成２９年度に実施する予定であった。しかし、PCR法を実施したところ設定条件の検討に時間を有し、シークエンス解析の実施まで至らなかったため、計画を変更し、平成３０年度に実施することとした。これにより、当初計画していたシークエンス解析等を実施せず、解析に必要な消耗品や解析ソフト等を平成２９年度には購入しなかったため、次年度使用額が生じた。この他に、年度末納品等にかかる支払いが平成３０年４月１日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定である。（使用計画）次年度に計画している塩基配列決定等にかかる費用として使用する予定である。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
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