前年度までの研究成果において、岐阜県産のシカに寄生する住肉胞子虫は、遺伝学的、形態学的に異なる7タイプ(タイプ1~7)に分類され、そのうちの2つのタイプ(タイプ4、7)は海外で報告されているSarcocystis pilosa、S. ovalisであり、他の5タイプには新種の可能性があった。今年度はその分類を含めて以下の成績を得た。 (1)小亜粒子リボソームRNAおよびミトコンドリアチトクロームオキシダーゼサブユニット1(cox1)遺伝子塩基配列の解析により、タイプ1、3、5を各々S. japonica、S. matsuoae、S. gjerdeiの新種とした。また、タイプ2とタイプ6は各々海外のシカ寄生種S. tarandi、S. taeniataと形態学的に類似し、遺伝子レベルでもそれらと近縁だったが異なるクラスターに分類されたことにより、両タイプをS. cf. tarandi、S. cf. taeniataとした。国内他地域のシカ寄生種の分布を調べるため、北海道、京都府、兵庫県、山口県、愛媛県、和歌山県産のシカ肉を検査したところ、岐阜県産のシカ寄生種が他地域のシカにも寄生していることが明らかとなり、新種等の寄生種は日本各地のシカに広く寄生していると考えられた。 (2)遺伝子検査による各寄生種の鑑別は、前年度に開発したマルチプレックスPCRにより可能であるが、原虫遺伝子の定量性と結果の迅速性等を念頭にリアルタイムPCRの開発を試みた。各寄生種検出用に設計した反応試薬(プライマー、プローブ)は7種に特異的であり、さらに検出感度もマルチプレックスPCRより高かった。遺伝子定量については今後実施する予定である。 (3)市販シカ肉に寄生する住肉胞子虫の生死を確認するため、通信販売による産地直送のシカ肉について調査を行った。商品は全て真空パックの冷凍状態で配送され、解凍後に検出された住肉胞子虫は全て死滅していた。商品が冷凍状態であれば、住肉胞子虫が寄生したシカ肉の喫食による食中毒等の健康被害を予防できると考えられた。
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