我々は、胎児期における化学物質曝露が出生時の発達に及ぼす影響を調べることを目的とし、東北地方の沿岸部を調査地として、平成15年より749組の母子の協力を得て、出生コホート調査を進めてきた。調査を継続している最中である平成23年3月11日に東日本大震災が発生し、対象地域は、地震及び津波により甚大な被害がもたらされた。震災発生時には、生後84ヶ月児を対象に知能検査などを進めている途中であったことから、震災前に調査を終えた群(震災前群)と震災後に実施した群(震災後群)が発生した。この2群を比較した結果、震災前群と比較すると、震災後群の子どもで言語性知能指数(IQ)の低下が観察された(Tatsuta et al. J Pediatr 2015; 167: 745-751)。この子どもたちが5年後の12歳で再び知能検査を実施している。そこで、本申請では、1)IQの低下が一時的なものなのか、2)IQが低下していた子どもの特徴を横断的に検証することを研究目的とする。 2017-2018年度には、出生コホート調査に登録された144ヶ月児を対象とした知能検査を対面調査法で実施した。2019年度には、統計解析を行い、東日本大震災がIQに及ぼす影響を調べた。 その結果、震災前群と震災後群において、生後84ヶ月時に観察されたIQの差異は12歳時に実施した知能検査では差が観察されなかった。差がなかった理由として、1)震災前群の子どもたちも震災の影響を受けたことによりIQが低下したために震災後群と差がなかった可能性と、2)震災後群の子どもたちが5年かけてIQがキャッチアップした可能性が考えられた。本研究では用いた知能検査のバージョンが異なることからその点については課題が残った。
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