研究実績の概要 |
本研究の目的は、近隣レベルの地域内格差と気分障害の発生の関連を明らかにすることである。地方自治体から提供された診療報酬明細書データ、税情報、居住地データ等を蓄積し、データベースを作成した。Geographic Information System (GIS)を用いて、徒歩30分圏内のジニ係数を求め、近隣レベルの地域内格差の指標とした。これらの情報を突合し、解析用データセットを作成し、マルチレベルロジスティック回帰分析により、ジニ係数と気分障害の発生の関連を調べた。従属変数は、追跡期間3年間の気分障害の発生、独立変数は、性別、年齢(個人レベル変数)、世帯のタイプ、世帯等価所得(世帯レベル変数)、徒歩30分圏内のジニ係数、人口、医療機関数、平均所得(地域レベル変数)である。解析対象者は116,658人であった。マルチレベル解析の結果、近隣レベルの地域内格差は気分障害の発生と有意な関連を示さず、その結果は、世帯等価所得を補正しても変化しなかった。また、ジニ係数と世帯等価所得との交互作用も有意ではなく、地域内格差の影響は低所得者と高所得者で異なるとは言えなかった。一方、低所得であることそれ自体は、気分障害の発生の増加と有意にかかわっており、貧困対策の重要性が示唆された。 本研究結果は、第11回ヨーロッパ公衆衛生学会(スロベニア、2018年11月28日~12月1日)で報告した。また、結果は論文としてまとめ、Social Psychiatry and Phychiatric Epidemiologyに投稿し、受理された。現在、オンラインで論文が出版されている状態である。退職による資格喪失のため、研究実施期間を1年短縮することとなったが、当初の目的は達成することができた。
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