研究課題/領域番号 |
17K09209
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
冨岡 公子 奈良県立医科大学, 医学部, 特任准教授 (20393259)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 疫学 / 前向きコホート / 健康寿命 / 地域在住高齢者 / 社会参加 / 公的統計 / 介護予防 |
研究実績の概要 |
我が国は、世界でも類を見ない超高齢社会に突入しており、国民の健康長寿(介護を必要とせず、生活機能が自立した状態で長生きすること)が急務の課題となっている。一方、社会参加は健康長寿の秘訣とされているが、高次な生活機能の自立に影響を与えるかどうか検討した研究は少ない。社会参加は、高齢者の健康に良い影響だけでなく悪影響も及ぼす、すなわち、諸刃の剣となる可能性が指摘されている。本研究の目的は、社会参加の種類、頻度、継続性、そして自主性に焦点をあて、奈良県内のある自治体の地域高齢者全員を追跡して、高次な生活機能と関連する社会参加を検討し、わが国の健康長寿社会の実現に寄与する知見を得ることである。 本研究は平成28年度に行ったベースライン調査を基に、高次な生活機能の維持や低下と関連する社会参加を研究する大規模前向きコホート研究である。対象者は奈良県内のA自治体の地域在住高齢者全員である。社会参加の種類、頻度、継続性、そして自主性に焦点をあてて、健康長寿社会の実現に有効な社会参加の内容を明らかにする。 令和3年度は補助事業期間延長の承認を受け、地域在住高齢者を対象とした追加調査を行い、コロナ禍の外出自粛(=社会参加への活動制限)の影響について検討したいと考えた。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、令和3年度に予定していた追加調査については中止となった。そこで、令和3年度は①平成28年度調査をベースライン調査、平成31年度調査を追跡調査とした前向きコホート研究を行う、②健康長寿の規定要因として、社会参加以外の要因にも着目する、③公的統計データを用いた健康長寿の規定要因を検討する、という新たな方針を掲げて、健康長寿の規定要因をより多く見つけ出し、健康長寿社会の実現に貢献したいと考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度に予定していた地域在住高齢者を対象とした追加調査については、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて中止となったが、①平成28年度調査をベースライン調査、平成31年度調査を追跡調査とした地域高齢者の前向きコホート研究を行い、身体的および認知的余暇活動が、要介護発生リスクの予測因子であるかどうかを性・年代別に検討し、より頻繁な余暇活動とより低い要介護発生リスクとの量反応関係は、男性の認知的、女性の身体的、前期高齢の身体的、後期高齢の認知的で認められ、地域高齢者の性や年代を考慮した頻繁な余暇活動を推奨することが、要介護状態の予防につながる可能性を明らかにした。本研究成果はEnviron Health Prev Medに公表した。②健康寿命喪失(正確には障害調整生存年数(DALY)喪失)の最大の原因である腰痛に着目して、2013年国民生活基礎調査匿名データを用いて、1)生産年齢人口における腰痛に関連する非就労者の割合および推計人数を算出し、20~64歳の非就労男性の2.8%(1,037千人)が、腰痛の回避によって働くことができる可能性があることを明らかにした。本研究成果はInt. J. Environ. Res. Public Healthに公表した。2)労災保険未加入の労働者、無職者および高齢者を含む、国民全体の職業関連要因と自覚的腰痛との横断的関連を評価し、農林漁業従事者は、諸外国と同様に、腰痛の多発職種であることを明らかにした。本研究成果はEnviron Health Prev Medに公表した。以上のように、令和3年度は研究計画として掲げた『追加調査』は実施できなかったが、『前向きコホート研究の成果の公表』および『社会参加以外の健康長寿の規定要因にも着目した研究の成果の公表』を予定通りに進めることが出来たので、おおむね順調な進捗状況と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画では、追跡調査の全額を科研費から支出する予定であったが、フィールド先のA自治体より共同研究の取り交わしおよび研究費の一部補助を得ることが出来、直接経費を節約できた。補助事業期間延長の申請を行った当時は、追加調査を実施出来ることは健康寿命社会の実現にメリットがあると考え、令和3年度に追加調査を行い、補助事業の目的をより精緻に達成したいと考えた。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、令和3年に予定されていた追加調査は中止となった。令和4年度は、「withコロナ」の社会を模索しながら、アンケート調査を10月に実施することで決定しており、令和3年度調査予定であった、コロナ禍の社会参加活動制限の影響について調査し、社会参加に変わる健康寿命に好影響を与える要因を検討する予定である。具体的には、①フィールド先であるA自治体にて、平成31年度調査の回答者を対象としたアンケート調査を行い、外出自粛による社会参加等の制限が地域在住高齢者にどのような影響を与えているのか調査する、②公的統計(国民生活基礎調査)やオープンデータを用いた疫学研究を行い健康長寿の規定要因を検討する、という方針を掲げて、研究成果の公表(論文投稿)を行う。本方針にて令和4年度も事業を継続することで、健康長寿の規定要因をより多く見つけ出すことが出来、そのことは、健康長寿社会の実現に貢献することができる、すなわち、補助事業の目的をより精緻に達成できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、追跡調査の全額を科研費から支出する予定であったが、フィールド先のA自治体より共同研究の取り交わしおよび研究費の一部補助を得ることが出来、直接経費を節約できた。次年度使用額を活用して、①令和4年度は平成31年度調査の回答者を対象とした追跡調査を行い、②国民生活基礎調査のデータやオープンデータも用いて、健康長寿の規定要因に関する疫学研究を行い、補助事業の目的をより精緻に達成したいと考えている。
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