研究課題/領域番号 |
17K09254
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研究機関 | 広島国際大学 |
研究代表者 |
早川 佐知子 広島国際大学, 医療経営学部, 講師 (90530072)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 看護師の多様性 / 看護師の専門化 / Nurse Practitioner |
研究実績の概要 |
本研究は、「各医療施設が看護師を囲い込むことに尽力する」という方向性から、「国家資格を有する専門職人材は、国全体の財産であると捉え、より大きな視点で看護師の長期的なキャリア形成を可能にする方法の検討」という視点への、パラダイムシフトを提案する。そのために、組織横断的な働き方が可能となるシステムの構築を訴える。ポイントは、①看護師のアイデンティティを、「雇用先」ではなく「専門性」へシフトさせること、そして、②職務をモジュール化することである。これらが実現しているアメリカの正看護師の事例を採りあげ、分析を行う。 本年度は、ポイントの①、看護師の専門化に焦点を当て、Nurse Practitioner(以下NP)に関する文献資料、および現地調査の結果を研究成果として論文にまとめた(早川佐知子(2018)「The Shifting Division of Labor Systems and Significance of Nurse Practitioners -Focused on the Changes of Medicine-」『広島国際大学 医療経営学論叢』第11号)。この中で、NPが増加している内的・外的要因の一つである「現代社会で求められる医療の性質の変化が引き起こした分業構造の転換」を重視し、現在の状況を実証した。 NPが医師やRNとは異なる役割を果たしていることは、勤務場所に表れていた。医師やRNが病院を主たる勤務場所とする一方、NPはクリニックに活躍の場を見出していた。日常生活を送りながら慢性疾患と付き合う患者が増加した現在、他職種と連携しながら患者のQOL向上を目指す医療の形が主流となる。NPはプライマリケア医の空席を埋める役割にとどまらず、患者や家族と深くコミュニケーションをとることで信頼関係を築き、医療を統合する役割を果たすべく前進していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請段階の計画では、初年度にあたる2017年度は、分析軸①にあたる、専門化の現状と過程に関する分析を、主に文献資料から行う予定であった。本年度は、予定通り、アメリカのNPに関する州法の規定を比較し、論点とされている職務範囲、各州の差異の比較を行うことができた。 また、NPに関する先行研究を深めることで、NP増加の背景を整理し、そこから「求められる医療の形が変化したこと」という独自の仮説を導き、実証することができた。また、現地でのインタビュー調査により、NPのアイデンティティが医師やRNとは異なっていることも明らかにすることができた。NPはしばしば、「ミニドクター」等と揶揄されたり、医師の仕事を奪う存在として医師職業団体から反発を受けたりするが、その存在意義の違いは重要である。 本年度計画に掲げながら達成できなかった課題には、労働協約におけるNPなどの上級看護師の規約の調査がある。こちらについては、今年度焦点を当てたのが、労働組合の影響力が小さいネブラスカ州であったことが原因である。職務範囲に関する州法の比較を見る限り、労働組合の影響力の強さと、職務範囲の広さは、必ずしも相関関係にない。むしろ、人口当たりの医師数、看護師数が少ない州において、より広い職務が許可されている傾向にある。 次年度以降は、NPを含めた上級看護師やPhysician Assistantといった職種の職務範囲を決めるファクターについて、より視野を広げて調査を進めてゆきたい。
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今後の研究の推進方策 |
二年目に当たる平成30年度は、分析軸②にあたる、看護師の職務のモジュール化と統合、そして、それらとTravelerの関係について明らかにする予定である。1900年代に始まった科学的管理法の医療への応用は、鉄道企業の労災病院から始まったが、その他の産業からの影響はどのように受けてきたのかという点も重要であると考えるため、100年あまりの長期的なスパンで、歴史的な分析を行いたい。医療に関する資料のみならず、科学的管理法に関する資料全般を収集する必要があるであろう。 同時に、これらの現状を明らかにする方法として、インタビュー調査を実施する予定である。これについては、Travelerを派遣する人材派遣企業に対する調査である。フロリダ州にある看護師派遣会社B社に調査を依頼済みであり、9月に訪問する。2016年にテキサス州にある医療系人材派遣会社A社において調査を実施したが、これと重ね合わせて分析を行いたい。 そして、看護師の派遣労働に関する先行研究はほぼすべてレビューしているため、派遣労働全般、ないしは人材派遣会社全般という広い観点から先行研究をレビューし、看護師の派遣労働を相対的に位置づける作業が必要になると考えている。これを9月のインタビュー調査に先駆けて行いたい。 インタビュー調査終了後は、文献資料で得た知見と併せて、論文にまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は国外調査を一回実施したが、科研費を使用せずに行ったことが最も大きな理由である。次年度のフロリダ州における調査に使用したい。
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