研究課題/領域番号 |
17K09254
|
研究機関 | 広島国際大学 |
研究代表者 |
早川 佐知子 広島国際大学, 医療経営学部, 講師 (90530072)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 看護師の専門化 / Nurse Practitioner / Physician Assistant |
研究実績の概要 |
2018年度は、本研究の2つの目的の1つである「看護師のアイデンティティを「雇用されている施設」ではなく「専門性」へシフトさせる」ための研究に力を注いだ。とりわけ、アメリカの正看護師の専門性を高めた延長線上にあるNurse Practitioner(NP)、そしてPhysician Assistant(PA)という上級資格についての研究を進めた。 現在、日本でも医師の過重労働が問題視され、医師業務を移譲することのできる職種として、特定看護師制度が設けられた。また、PAについても検討が進められている。このため、アメリカの同資格を分析するにあたっては、成熟期にある現在の状況を分析するよりも、揺籃期に当たる1960年代から70年代にかけて、どのように浸透していったのか、どのような課題を乗り越えたのか、という点を分析することが重要であり、示唆が大きいと考えた。そのため、当時の資料や先行研究を可能な限り集め、歴史的背景と照らし合わせながら整理する作業を行った。PAやNPの現在の働き方については、国内では、創設時からどのような道をたどって現在に至っているのかという点については、全く明らかにされていないため、これを詳らかにすることには意義があると考える。 明らかになった事実を端的にまとめると、①PAとNPの誕生の背景には、公的保険制度の創設による医療需要の増大、医師の専門化に伴うプライマリ・ケア医の不足という共通の課題がある一方、PAについてはベトナム戦争の衛生兵をスムーズに市民社会に戻すことで、反戦の声を封じるというジョンソン政権の狙いが存在したという違いがあったこと、②開業権を有するNPについては医師からの反対があったことで、浸透が遅れたが、PAについては縦の主従関係を強調したことにより、医師会からの強いバックアップも得ることができ、スムーズに浸透したこと、以上2点が挙げられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年の夏には、もう1つの研究の目的である「看護師の職務のモジュール化」に関する調査を、アメリカにおいて実施する予定であった。しかし、7月の豪雨災害によってスケジュール変更を余儀なくされ、渡米することが叶わなかった。このため、方向性を徹底した資料収集とその整理および分析に充てることに変更した。アメリカ調査は2019年に実行する予定であるが、そのために厚みのある予備知識を整理することができたため、結果としては良い方向へ順調に進んでいると思われる。 とりわけ、看護師の職務のモジュール化を分析するにあたっては、看護師の派遣労働をポイントに据えていた。2018年度の後半はこの分析を、アメリカの派遣労働全体から見た看護師の派遣労働の位置付けという視点で捉えることに力を注ぎ、新たな視点を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度に当たる2019年度は前年度に十分に取り組めなかった「看護師の職務のモジュール化」に力を入れたいと考えている。2018年度の後半に進めたアメリカの派遣労働全体から見た看護師の派遣労働に関する分析は、2019年5月に行われる社会政策学会全国大会にて研究報告する。そして、この内容は同学会誌に投稿の予定である。 また、2018年度に実施することができなかった海外調査についても、夏季に行う予定である。「看護師の職務のモジュール化」の鍵を握る、医療職種の派遣会社(フロリダ州)にインタビューを依頼している。ここではとりわけ、派遣会社の経営の狙いに焦点を置いた調査を行いたい。他職種の派遣会社とは、さまざまな経営戦略の違いが見られるだろう。常に需要が高く、専門的なスキルを持って高い賃金を得ることができる医療職種にあっては、派遣労働者の売り手市場である。このような状況にあって、人材派遣会社はどのように派遣先の病院に自らを売り込み、どのように派遣労働者を管理しているのかと言う点について、特色が見られるはずである。 そして、もう1つの論点である「看護師の専門化」については、引き続きPAおよびNPの歴史的な展開について分析を行いたい。2018年度に1970年代までの先行研究はほぼ網羅し、整理することができたので、2019年度は1980年代から現在までの歴史に取り組む。 最終的に、正看護師が大多数を占め、ゼネラリストとして育成されることの多い日本の看護師制度が、縦横に、より多様な広がりを持つことができ、さまざまなキャリアの選択をしながら長く働くことのできる制度について提言を行いたい。そのために、少しずつ始まっている看護師キャリアの複線化を導入している国内の病院において、現状を調査する必要があるであろう。また、日本版NPを目指して始まった特定看護師制度に関しても、現状をより詳しく把握する必要があると考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
広島地方の豪雨災害により勤務校の授業スケジュールが変則的となったり、地元での復興ボランティアなどに従事していた関係で、夏季休暇がほぼ取れず、予定していたアメリカ調査、国内調査のいくつかを実施することができなかったため。
|