本研究は、専門職である看護師の雇用形態による格差を問題視し、それが看護師不足の原因のひとつであるという仮説をとったものである。すなわち、「各医療施設が看護師を囲い込むことに尽力する」という方向性から、「国家資格を有する専門職人材は、国全体の財産であると捉え、より大きな視点で看護師の長期的なキャリア形成を可能にする方法の検討」という視点への、パラダイムシフトを提案したい。そのために、組織横断的な働き方が可能となるシステムの構築の必要性を訴える。ポイントになるのは、①看護師のアイデンティティを、「雇用されている施設」ではなく「専門性」へシフトさせること、そして、②職務をモジュール化すること、以上の2点である。それゆえ、これらが実現しているアメリカの正看護師の事例を採りあげ、分析を行った。 分析するために、アメリカの専門性の高い派遣看護師であるTravelerに焦点を当てた。調査方法は、以下のプロセスによる。第一段階では、文献資料を中心に、看護師の専門化の現状と過程を、より正確に把握する。第二段階では、Travelerの活躍を可能にした医療のシステムを、モジュール化という観点から明らかにする。同時に、協業のシステムについても分析を行う。第三段階では、これらが引き起こす問題点を整理しながら、日本の医療における実現可能性を検討する。 第一段階では、アメリカの派遣労働・人材派遣業全体の歴史から派遣看護師の特殊性を炙り出し、早川(2019)にまとめた。第二段階では、現場での分業・協業体制について明らかにするために、マサチューセッツ州の医師にオンラインインタビューを実施したことが中心である。第三段階では、2019年・2020年と日本看護協会の「ナースセンターの将来構想委員会」に参加し、現場の看護師と共に日本での制度設計について議論を行った。
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