研究課題
本研究の目的は法医解剖例における網膜剥離や眼底出血の発症機序を明らかにすることである.研究期間に検査を施行できた症例は94例,188眼であった.年齢は0~97歳(中央値64.5歳).性別は男性64例,女性30例であった.出血性網膜ひだ(網膜分離)は3例5眼に認め,これらは0歳児の頭部外傷症例であった.網膜と硝子体の接着が強い眼底後極部の耳側網膜血管沿いや黄斑部網膜に一致して出血性網膜ひだ(網膜分離)を認め,硝子体の牽引によって生じたものと考えられた.網膜前出血(内境界膜下出血)は4例7眼に認め,何れも0歳児の頭部外傷症例であった.眼底後極部だけでなく,硝子体基底部付近にも多く認められ,硝子体からの牽引によって生じたものと推測された.しかし,網膜前出血(内境界膜下出血)は血液疾患等で出現することがあると報告されており,慎重に成傷機転を考察する必要があると考えられた.網膜出血は7例13眼で確認され,その多くは頭部外傷症例であったが,網膜出血の層と後部硝子体剥離等との関係性は認められなかった.視神経鞘出血は3例6眼に確認され,何れも頭蓋骨骨折を伴う後方への頭部加速度損傷であった.網膜と硝子体の接着が強固な乳幼児において,出血性網膜ひだ(網膜分離)と視神経鞘出血は,頭部加速度損傷に特異的な眼所見と考えられた.但し,これらの所見から虐待による頭部外傷や揺さぶられっ子症候群及び転落事故による頭部打撲を鑑別できるかについては,今後の更なる症例数の積み重ねが必要と考えられた.一口に「眼底出血」といっても,種類や成傷機転は様々で,個々の病変を総合的に考察しない限り,それが病的なものか,頭部加速度損傷なのか,虐待を疑う症例なのかの判別は困難である.現在汎用されている「広範で多発性・多層性・多形性の網膜出血,網膜ひだ,網膜分離症」 では,虐待を診断するには不充分であると考えられた.
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