研究実績の概要 |
高齢者に特徴的な事例の1つとしてうつ状態を始めとした気分障害を背景とした自殺が挙げられるが,自殺例を対象とした神経病理学的検討は世界的に非常に少ない.本研究は高齢者自殺剖検例から神経変性疾患を背景とする症例の存在,頻度を明らかにし,神経変性疾患が統計学的に自殺の危険因子となることを証明することを主題とする. 具体的には50才以上の自殺死亡数に対する神経変性疾患の罹患率を算出し,年齢をマッチさせた神経病理学的に疾病診断基準を満たさない自殺剖検例数と比較して,神経疾患罹患自体が高齢者の自殺の発生について有意性な危険因子であることを証明し,個々の疾患別で,病変強度と自殺の関連を示し,頻度の高い一部疾患では病変強度,進行度と自殺率の関連についても検証し,その有無を明らかにするものである.剖検例は年齢、性別、死因、死亡の原因(病死、事故死、自殺、他殺または不詳)の分類を行い、神経病理学的解析が可能であった例につき、前頭葉,後頭葉、側坐核, 中心前回,扁桃体, 乳頭体, 視床,視床下核, 前方海馬、後方海馬, 側頭葉, 小脳歯状核, 小脳虫部, 中脳, 橋, 延髄を含むブロックを作成する。作成したブロックのうち,後方海馬を含む切片,基底核,乳頭体,中脳を含む切片について,Gallyas-Braak染色,抗β-amyloidとリン酸化tau,TDP-43抗体,中脳,延髄に関しては抗リン酸化a-synuclein抗体を用いた免疫染色を施行する。その後、アルツハイマー病、パーキンソン病、嗜銀顆粒症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、多系統萎縮症などの神経変性疾患罹患例を抽出する。統計学的にこれら神経変性疾患が自殺の危険因子となっているか、検証する。
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