罹患率が高く、突然死を引き起こす心不全の多くは心筋梗塞後の代償機転である心室リモデリングが破綻した結果である。予後不良な心室リモデリングは間質と血管周囲の線維化が特徴である。本研究は血管周囲性線維化とカルシウム依存性プロテアーゼであるカルパインの関係を明らかにし、心筋梗塞後に起こる線維化の病態を解明することを目的とした。 ラット左冠状動脈結紮による心筋梗塞モデルを作製したところ、虚血30分再灌流後5分というごく早期に心臓血管の平滑筋に局在するμ‐カルパインが活性化していた。また、組織の線維化を促進する因子として知られているTGF-β1の発現が誘導されていた。TGF-β1は発現誘導された後、カルパインなどのプロテアーゼによる限定分解を受け活性化することが知られているが、TGF-β1は限定分解を受けておらず、不活性な潜在型の状態(latent TGF-β1)だった。また、TGF-β1のタンパク質量の増加に反して、mRNA量は変化していなかった。一方、カルパイン阻害剤をラットに投与すると、虚血再灌流後のTGF-β1タンパク質の発現上昇が抑制されており、活性化カルパインはTGF-β1の発現に翻訳レベルで関与していることが示唆された。そこで、タンパク質の翻訳を調節するmicroRNA(miRNA)に着目し、心筋梗塞後の発現量の変化をGene Chip解析で網羅的に検索した。その結果、miRNA-133a、miR-1を含む数種類のmiRNAの発現量が心筋梗塞後に変化し、その変化はカルパイン阻害剤の投与で抑制された。これらの結果から、心筋梗塞後ごく早期に活性化したカルパインは、TGF-β1を介した組織線維化の過程において、miRNAを調節していることが示唆された。
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