研究課題/領域番号 |
17K09274
|
研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
古川 福実 和歌山県立医科大学, 医学部, 博士研究員 (40156964)
|
研究分担者 |
石田 裕子 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (10364077)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 受傷後経過時間 |
研究実績の概要 |
本研究は,近年クローニングされ生命科学の分野で注目を集めている「アクアポリン(AQP)」が,皮膚損傷の受傷後経過時間判定のための指標となり得るかについて検討するものである.剖検例から得られたヒト皮膚創傷(55例)において,アクアポリン1およびアクアポリン3に対する抗体を用いて免疫組織化学的検討を行った.受傷後経過時間ごとに以下のように分類した:I群、0-3日(n = 16); II群、4-7日(n = 11); III群、9~14日(n = 16);およびIV群、17~21日(n = 12).受傷していないコントロールサンプルにおいては,アクアポリン1およびアクアポリン3は真皮の血管およびケラチノサイトにわずかに検出された.アクアポリン1陽性の血管の占有面積の割合およびアクアポリン3陽性のケラチノサイトの数は,受傷後経過時間に伴って増強した.アクアポリン3陽性のケラチノサイト数は,II群およびIII群において著明に増加していた.アクアポリン1陽性の血管の占有面積およびアクアポリン3陽性細胞数は,II群で他の群と比べて有意に増加していた.アクアポリン1陽性血管占有面積が5%以上の創傷は受傷後経過時間が4-12日を示すことが明らかとなった.また,アクアポリン3陽性細胞数が300を超える創傷は,受傷後経過時間が5-10日を示す.これらの結果から,ヒト皮膚創傷におけるアクアポリン1およびアクアポリン3の免疫組織化学的検討は,受傷後経過時間検索の有用な指標となり得ることが示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,近年クローニングされ生命科学の分野で注目を集めている「アクアポリン(AQP)」が,皮膚損傷の受傷後経過時間判定のための指標となり得るかについて検討するものである. 法医実務において受傷後経過時間判定は必須であるが,より精度の高い判定を行うには可能な限り多くの客観的指標を用いることが重要である.また,各指標の独立性が高いほどそれらの価値は高まるものと考えられる.法医学の領域でこれまでAQPに着目した研究はほとんどみられない.そこで本研究では,既存の指標とは全く異なった視点から皮膚損傷治癒過程における損傷部局所でのAQP検出にチャレンジして,その出現様態を明らかにし,それが受傷後経過時間判定のための有用な指標となり得るか否かについて検証する. 現時点までに,アクアポリン1および3の発現様式を,ヒト皮膚創傷部サンプルを用いて明らかにした.さらには,それら発現様式が受傷後経過時間判定の有用な指標となり得ることを明らかにしたため,本研究は概ね順調に進展していると考える.
|
今後の研究の推進方策 |
主にマウスを用いた実験を行うとともにヒト剖検試料の収集に努める. マウス皮膚損傷モデルは,応募者らの研究室ですでに確立しており,直ちに効率的に研究を進めることができる(図5).具体的には,マウスをペントバルビタール(50 mg/kg, 腹腔内投与)により麻酔し,剃毛した背部皮膚に直径4 mmの打ち抜き損傷を作製する.損傷作製後経時的にマウスを頸椎脱臼により安楽死させ,損傷部組織を採取する.対照試料は損傷を作成していないマウスの正常皮膚より採取する. 経時的に採取した皮膚損傷部試料の一部を用いて,パラフィン包埋切片を作製する.各切片について,AQP1およびAQP3に対する抗体を用いて,それぞれを組織レベルで検出する.応募者らはこれまでに,皮膚組織におけるAQP1およびAQP3をタンパク質レベルで検出する実験手技を修得しており直ちに目的とする研究を行うことが可能である. 経時的に採取した皮膚損傷部試料の一部を用いて総タンパクを抽出し,western blotting法およびELISA法によりAQP1およびAQP3を検出し,損傷治癒過程におけるAQPの時間的出現様態を明らかにする.応募者らはこれまでに,予備的実験において,受傷後7日の皮膚損傷部におけるAQP1およびAQP3をタンパク質レベルで検出することに成功しており,今後さらにデータを蓄積する.
|