本研究は,近年クローニングされ生命科学の分野で注目を集めている「アクアポリン(AQP)」が,皮膚損傷の受傷後経過時間判定のための指標となり得るかについて検討するものである.剖検例から得られたヒト皮膚創傷(55例)において,アクアポリン1およびアクアポリン3に対する抗体を用いて免疫組織化学的検討を行った.受傷後経過時間ごとに以下のように分類した:I群、0-3日(n=16); II群、4-7日(n=11); III群、9~14日(n=16);およびIV群、17~21日(n=12).受傷していないコントロールサンプルにおいては,アクアポリン1およびアクアポリン3は真皮の血管およびケラチノサイトにわずかに検出された. アクアポリン1陽性の血管の占有面積の割合およびアクアポリン3陽性のケラチノサイトの数は,受傷後経過時間に伴って増強した.アクアポリン3陽性のケラチノサイト数は,II群およびIII群において著明に増加していた.アクアポリン1陽性の血管の占有面積およびアクアポリン3陽性細胞数は,II群で他の群と比べて有意に増加していた.アクアポリン1陽性血管占有面積が5%以上の創傷は受傷後経過時間が4-12日を示すことが明らかとなった.また,アクアポリン3陽性細胞数が300を超える創傷は,受傷後経過時間が5-10日を示す.これらの結果から,ヒト皮膚創傷におけるアクアポリン1およびアクアポリン3の免疫組織化学的検討は,受傷後経過時間検索の有用な指標となり得ることが示唆された.
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