研究代表者は、鍼治療が血液透析患者の訴える療法由来の症状の緩和や、QOLの向上・維持に貢献できることを目指している。血液透析患者は、血液透析療法後に原因不明の全身のだるさを訴えることが多く、自律神経活動が乱れている慢性疲労症候群と同様であることから、本研究では、自律神経活動に着目して鍼治療の効果を評価することとした。また、鍼治療効果に関する臨床研究では、二重盲検における対照群の設定が困難であったが、本研究では貼付型の鍼を用いることで解決した。すなわち、本研究の目的は、血液透析療法前後の自律神経の変動およびそれらに対する鍼治療の影響について、起立負荷試験を用いて二重盲検によるランダム化比較試験によって検討した。 本研究の結果、血液透析療法前後および鍼治療の介入による心拍数、自律神経の活動指標、交感神経および副交感神経の指標に、統計学的に有意な変化は観察されなかった。しかし、鍼治療を受けた対象者から、痛み等の症状の改善を聴取することができた。 本研究において、難しいとされていた鍼治療臨床研究の二重盲検試験を実践したこと、自律神経活動を評価に用いたことは先駆的な取り組みだったと考える。また、鍼治療は、血液透析における自律神経活動に影響を及ぼさなかったものの、透析患者が訴える症状を改善した。現在、本邦における血液透析患者は増加の一途をたどっている。鍼治療が、これら多くの患者の症状を緩和できる可能性を見いだすことができたことは、今後の研究の一助となった。
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