本研究の目的は、高血糖がフレイル、サルコペニアの進展に関与しているという仮説のもと、①身体的フレイルを呈する高齢糖尿病患者を対象に、高血糖の是正が筋量、筋力、身体機能、下腿筋エコーによる筋質評価などに与える影響を検討すること、②ストレプトゾトシン(STZ)糖尿病モデルラットで生じる筋量減少、筋力低下が、SGLT2阻害薬による高血糖の是正により軽減するかを、終末糖化産物(AGE)や炎症の関与に着目し検討することである。 ①については、2018年12月に「高齢糖尿病患者に対する食後高血糖改善がフレイル・サルコペニアに及ぼす影響の検討」として承認された臨床研究を開始した。具体的には対照群(少量SU薬使用群)と介入群(αグルコシダーゼ阻害薬とグリニド薬の合剤使用群)との比較によりサルコペニア指標との関連を検討しており、現段階での中間報告を示す。HbA1cの変化は両群間で同等であったが、血糖日間平均と偏差については対照群と比較し介入群で改善が大きかった。四肢筋量の変化は両群間で差がなかったが、下肢筋力、握力は対照群と比較し介入群で上昇傾向がみられた。以上から血糖変動の改善が筋力維持に寄与する可能性がある。 ②については、SGLT2阻害薬を用いた高血糖是正による下肢筋への影響を検討するため、対照(C)群、対照+SGLT2阻害薬(C+SG)群、高血糖(STZ)群、STZ+SGLT2阻害薬(STZ+SG)群の4群間比較の検討を行った。STZ群にみられた速筋群の重量減少はSGLT2阻害薬投与により部分的に抑制されていた。速筋におけるAGEの受容体(RAGE)の発現を4群間で比較したところ、STZ群で発現亢進がみられたが、STZ+SG群でC群と同等の発現レベルであり、AGEの発現についても同様であったことから、高血糖により筋量低下が生じるメカニズムとしてAGEの関与が示唆された。
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