血管の老化である動脈硬化は寿命に直接的な影響を与える。心筋梗塞、脳卒中は動脈硬化によって血管が閉塞し、血流が低下することによって起こる疾患であり、これらに罹患すると活動性が低下して健康寿命が短縮される。重症の場合には寝たきりとなって生活の質は著しく低下する。本研究のテーマであるApop遺伝子は動脈硬化を起こした血管の活性化されている平滑筋細胞において発見された。Apop遺伝子を発現させた細胞では細胞の能動的な死であるアポトーシスが誘導されることが明らかになった。Apopの詳細な機能を明らかにするため、発現を抑制した細胞を用いて解析した結果、Apop発現抑制によって細胞内の小器官であるミトコンドリアの機能に明らかな変化が認められた。Apopにはミトコンドリア局在シグナルが存在することと矛盾しない結果であった。ミトコンドリアにはエネルギー物質であるATPを生産するための器官として電子伝達系が存在している。電子伝達系は細胞老化の原因となる酸化ストレスの産生にも関係している。Apop発現はこの電子伝達系の機能に影響していることが明らかになった。ミトコンドリア機能はエネルギー生産によって生体の活動性に影響を与え、ミトコンドリアの機能低下は生体を老化させると考えられている。本研究によってApop遺伝子の発現制御はミトコンドリアの機能亢進を介してエネルギーと酸化ストレスの生産に影響を与えることにより、健康寿命に影響することが示された。
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