研究実績の概要 |
研究代表者及び研究分担者らはこれまでに環境ストレスである慢性マイルドストレスを負荷して作成したうつ様モデルマウスに対して、漢方方剤「香蘇散」煎剤が経口投与により抗うつ様活性を示すことを明らかにした。また、香蘇散煎剤の抗うつ様活性発現の機序を明らかにするため、脳の視床下部についてプロテオーム解析を行い、環境ストレスを負荷することによって発現量が変化し、香蘇散煎剤の投与によって発現量が回復するタンパク質を複数種類見出した。しかし、対人ストレスのモデルである慢性社会的敗北ストレス(CSDS)を負荷して作成したうつ様モデルマウスに対する香蘇散煎剤の抗うつ様活性発現機序のプロテオーム解析による検討は行われていない。昨年度はCSDS誘発うつ様モデルマウスに香蘇散煎剤を経口投与し、抗うつ様活性について検討するとともに脳の海馬について安定同位体標識法によるプロテオーム解析を行った結果、香蘇散煎剤の抗うつ様活性の発現に飼育飼料が関わっていることが明らかとなった。 そこで今年度は、CSDS誘発うつ様モデルマウスの海馬から抽出したタンパク質について、安定同位体標識試薬を用いたLC-MSによるプロテオーム解析を再現性の確認を含めて行った結果、比較可能なペプチドとして29,498種が検出された。これらのペプチド情報から同定し、ストレス負荷で発現量が変化したタンパク質185種のうち、香蘇散煎剤投与により回復したタンパク質は24種で、精神疾患や炎症に関連するphospholipase C-gamma 1やperoxiredoxin 6, membrane protein MLC1も含まれていた。また、ストレス負荷で発現量が変化したペプチド1,073種のうち、香蘇散煎剤投与によって回復したペプチドは171種であった。そのうち15種のペプチドにおいて脱アミノ化や酸化などの翻訳後修飾が観察された。
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