研究課題/領域番号 |
17K09320
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
伊藤 直樹 北里大学, 東洋医学総合研究所, 研究員 (00370164)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 香蘇散 / 社会的ストレス / 再発 |
研究実績の概要 |
これまでに我々は、社会的敗北ストレス (CSDS) 誘発うつ様モデルマウスを用いて、漢方薬「香蘇散」のうつ予防効果ならびに再発防止効果の可能性を報告してきた。そこで29年度本研究課題では、その再発防止効果について詳細な解析を進めたと同時に、香蘇散と既存の抗うつ薬との併用による治療効果についても検討を行った。以下に得られた成果の概略を示す。 1. 香蘇散投与によるうつ再発防止効果のメカニズムとして、血中のストレスホルモンであるコルチコステロンレベルの改善が一部関与している可能性が示された。また、網羅的遺伝子解析により脳内 (特に海馬) の炎症関連因子の挙動を詳細に調べたところ、香蘇散投与により全体的に炎症が抑制される方向に様々な因子が調節される可能性が示された。 2. マウスにおけるCSDS誘発うつ様行動に対して、香蘇散と既存の抗うつ薬であるミルナシプランを併用したところ、各々単独投与では改善が認められなかった期間でもその併用で治療効果が発揮された。またその作用の一部に脳内炎症の抑制効果が関与する可能性が示された。これらは、薬物服用期間が長くならざるを得ないうつ病治療において、抗うつ薬と漢方薬の併用が治療期間を短縮できることを示唆していると考えられた。 以上の結果から、香蘇散のうつ再発防止効果、並びに併用による治療効果には、脳内炎症の制御が共通して関与していることが示唆された。これらの成果は、うつの予防、再発防止、治療に脳内炎症制御がターゲットになり得ることを示しており、漢方医学的な介入も有効であることを示したエビデンスが得られたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、本年度は香蘇散のうつ再発防止効果について詳細な検討を遂行することが出来た。また、これまでの香蘇散研究で得られた成果を考慮して、香蘇散と既存の抗うつ薬の併用による治療効果についても併せて検討したところ、香蘇散単独では治療効果が認められなかった期間でも、抗うつ薬との併用で治療効果が発揮される可能性がCSDSモデルマウスを用いた検討により示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果より、CSDSモデルマウスで示されるうつ様行動に対して、香蘇散による予防効果や再発防止効果が認められたことから、香蘇散が未病の状態にも作用している可能性が高まった。よって当初の計画通り、次年度は本モデルマウスを用いて、香蘇散の未病制御の検討を進める予定である。また我々は別の研究で、加齢に伴い誘発される脳内炎症や情動変化を示す老化促進モデルマウス (SAMマウス) が未病制御の研究で有用である感触を得ている。そのため、SAMマウスを用いた検討も次年度計画に組み込む予定である。そして、次年度から最終年度にかけては、香蘇散と抗うつ薬の併用で治療効果が発揮されるメカニズムについても詳細に検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の成果により次年度に新たなモデル動物 (SAMマウス) を用いた検討も組み込むことが想定されたため、その検討に当てる予算を次年度に繰り越した。
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