前年度までに我々は、老化促進モデルマウスであるSAMP8マウスが加齢によりある週齢(17週齢)に達すると、脳内炎症をはじめ、うつ様行動や不安様行動などの情動行動異常、並びに概日リズム異常などが出現することを見出した。そして、17週齢に達するまでの期間を未病期とし、SAMP8マウスが未病評価系モデルとして利用できる可能性を示した。そこで、本年度はこの未病評価系モデルを使用し、脳内炎症に有効性を示す漢方薬である香蘇散を未病期(8週齢)から長期投与した際、加齢に伴って出現する行動異常や脳内炎症にどのような影響を及ぼすかを検討した。その結果、得られた成果を以下に示す。 ・香蘇散の投与によって、15週齢の時点で一時的な概日リズム異常の有意な改善が認められた。 ・香蘇散の投与によって、18週齢の時点で不安様行動の改善は認められなかった。 ・香蘇散の投与によって、18週齢の時点でうつ様行動の有意な改善、また脳内炎症の改善傾向が認められた。 以上のことから、香蘇散は本未病評価系モデルにおいて、不安様行動には影響を与えなかったものの、うつ様行動や概日リズム異常を抑制することが示唆され、その作用に脳内炎症の抑制が一部関与する可能性が示された。これらは、香蘇散が加齢による異常を未然に防止することを示唆しており、漢方薬が未病を制御することを科学的に証明した一つの成果であると考えられた。
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