研究課題
麻黄エキス(EHE)は、肝細胞増殖因子(HGF)受容体c-Metを過剰発現しているヒト非小細胞肺がんH1993細胞のc-Met発現をダウンレギュレーションすることを見出した。今年度は、その分子機構の解明を目的とし、遺伝子発現や分解系のエンドサイトーシスの経路に注目し、詳細に検討した。EHEはc-Met遺伝子発現に影響を与えているかどうかを検証した。EHE添加によるc-Met遺伝子の発現量の変化をRT-PCRで解析した結果、EHEはc-Met遺伝子発現に影響しないことが明らかになった次にEHEによるc-Metの分解系の促進について解析した。クラスリン依存性エンドサイトーシスは受容体が細胞内に取り込まれるための機構と考えられていることから、この経路に注目しクラスリン阻害剤Pitstop2を用いて解析した。H1993細胞は無血清培地で4時間培養すると細胞分散が誘導されるが、EHEの添加によって細胞分散が抑制され、同時にc-Met発現量が低下していることを見出した。HGF-c-Metシグナルは細胞分散を誘導することが知られているが、H1993細胞ではc-Met過剰発現による自己リン酸化で生じたシグナルにより細胞分散が生じ、EHEの添加によってc-Met発現量が低下し、c-Metシグナルが減少することで細胞分散が抑制されたものと考えられた。そこでこの現象を利用して、Pitstop2の阻害効果を検証した。Pitstop2は、EHEによる細胞分散の抑制を阻害し、細胞分散を誘導した。この結果から、EHEはクラスリン依存性エンドサイトーシスを促進していることが示唆された。以上の結果から、EHEによるc-Met発現量の低下がPitstop2により阻害されることを検証することが次の課題となった。
3: やや遅れている
Pitstop2が麻黄エキスによるc-Met発現量の低下を阻害するかどうかをWestern blottingにより検証する予定であったが、無血清培養条件下ではPitstop2により生じる強い細胞分散によってH1993細胞が剥がれ、十分に回収できず、c-Met発現量を解析できなかった。そこで、Pitstop2の存在下でH1993細胞を回収できる培養条件について検討を行っているところである。
今年度の研究成果から、麻黄エキス(EHE)は、クラスリン依存性エンドサイトーシスを促進していることが示唆された。EHEによるc-Met発現量の低下が、クラスリン阻害剤Pitstop2により抑制されることを検証することが課題である。H1993細胞は無血清培地では培養皿への接着が弱いため、今年度検討した血清存在下での培養条件を用いてPitstop2による阻害実験を検討する予定である。また、c-Metに対する解析だけなく、上皮細胞増殖因子(EGF)受容体EGFRについても、同様の解析を行う予定である。さらに次のステップとして、EFEがエンドサイトーシスだけでなく、トランスサイトーシスを促進する可能性について検討するために、ヒト腸上皮細胞株Caco-2細胞の単層培養を用いたトランスサイトーシスのアッセイ系を作製する。Caco-2をトランスウエルインサート上で培養し単層を形成し、トランスサイトーシスのマーカーとして用いられているHRPをCaco-2単層培養上に添加し、下部ウエルに移行したHRP量を酵素活性測定法で定量し、EHEの添加による影響について、濃度依存性や経時的な影響を詳細に解析する。
今年度の研究計画がやや遅れており、その実験を次年度に実施するために必要な消耗品費用分を次年度に繰り越した。次年度分の予算は、次年度の研究計画どおりに、新しいアッセイ系を立ち上げるための備品の購入と消耗品等の購入に充てる予定である。
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