研究課題
これまでに、麻黄エキス(EHE)は、肝細胞増殖因子受容体c-Metを過剰発現しているヒト非小細胞肺がんH1993細胞のc-Met発現をダウンレギュレーションすることを見出した。昨年度の研究から、EHEはクラスリン依存性エンドサイトーシスに影響を与えていることが示唆された。そこで、クラスリンの重合を阻害するクラスリン阻害剤Pitstop2を用いて、EHEによるc-Metのダウンレギュレーションが阻害されるかどうかを検討した結果、Pitstop2濃度依存的に阻害された。一方、カベオラを壊してカベオリン依存性エンドサイトーシスを阻害するMethyl-β-cyclodextrinは、EHEの作用に影響を与えなかった。これらの結果から、EHEはクラスリン依存性エンドサイトーシスを促進していることが示唆された。さらに、リソソームのタンパク質分解酵素阻害Bafilomycin A1の濃度依存的にEHEの作用が阻害されたことから、EHEは、c-Metのクラスリン依存性エンドサイトーシスとリソソームでの分解を促進していることが示唆された。次に、EHEがトランスサイトーシスを促進する可能性について検討するため、ヒト腸上皮細胞株CACO-2細胞の単層培養を用いたトランスサイトーシスのアッセイ系を構築した。理研細胞バンクからCACO-2細胞を入手し、トランスウエルインサート上で21日間培養し、経上皮電気抵抗(TER)をミリセルERS-2で測定して、200Ω以上になっていることを確認した。トランスサイトーシスのマーカーとして用いられているHRP (horseradish peroxidase)をCaco-2単層培養上に添加し、2時間培養した。下部ウエルに移行したHRP量を酵素活性測定法で定量した結果、4.3%のHRPが下部ウエルに移行し、本アッセイ系が機能していることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
予定どおり、EHEのエンドサイトーシスのメカニズムを明らかにし、さらに、トランスサイトーシスのアッセイ系を構築できた。さらに、今年度の研究中に、EHEと既存の受容体型チロシンキナーゼ阻害剤の作用が大きく異なることを見出した。既存のチロシンキナーゼ阻害剤は、受容体のリン酸化を阻害するが、受容体の発現量は増加した。受容体のダウンレギュレーションは、リン酸化がきっかけとなって起こるが、阻害剤によりリン酸化を阻害されたため、ダウンレギュレーションが止まったと考えられた。一方、EHEは受容体のリン酸化阻害と受容体のダウンレギュレーションを促進したことから、EHEはリン酸化されていない受容体もダウンレギュレーションしていることが示唆され、既存のチロシンキナーゼ阻害剤とは、作用メカニズムが異なることが明らかになった。
今年度に作製したトランスサイトーシスのアッセイ系を用いて、EHEがHRPのトランスサイトーシスを促進するかどうかを検証する。また、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(EFE)についても同様の作用があるのかどうかを確認する。さらに、最近、EHEやEFEの活性成分として、高分子縮合型タンニン(MW 45kDa以上)を見出しており、この高分子成分が下部ウエルにトランスサイトーシスされるのかどうかを検証する。
CACO-2細胞の維持に20%FCS含有培地が必要で、血清の消費量が早く、新しいロットの血清を購入予定であるが、血清のロットチェックが年度内に間に合わず、来年度にロットチェックを行い、血清を購入することとなったため、血清購入費用を次年度に繰り越した。
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