研究課題/領域番号 |
17K09328
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
高久 俊 日本医科大学, 医学部, 講師 (50445813)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 担がん宿主 / 抗ウイルス免疫 / 漢方薬 |
研究実績の概要 |
昨年度の研究からi)担がんマウスにおいてはヒト免疫不全ウイルス由来外被糖蛋白(HIV-1 gp160)を発現する組換えワクチニアウイルス(vSC25)接種によるHIV-1 gp160特異的CD8陽性CTLの誘導が抑制されること ii)in vitroでの特異抗原刺激に対する担がんマウス由来の免疫脾臓細胞の反応性は低いこと、を見いだした。そこで本年度はこのような抑制が漢方薬内服によって解除されるか否かを検討した。具体的には①vSC25+漢方非含有飼料摂取群②vSC25+漢方含有飼料摂取群③vSC25+CT26+漢方非含有飼料摂取群④vSC25+CT26+漢方含有飼料群、の4群に分けて腫瘍接種28日目にex vivoで脾臓細胞中のHIV gp160特異的CD8陽性CTL数をそのエピトープペプチドP18-I10/H-2Ddテトラマーを用いて調べ、更にこれら免疫脾臓細胞をin vitroで5日間培養後、テトラマー陽性細胞数および、その抗原特異的細胞傷害活性を51Crアッセイで評価した。しかし漢方薬摂取はがんの有無に関わらずex vivoおよびin vitroにおけるテトラマー陽性細胞数および細胞傷害活性に影響を与えなかった。ところでP18-I10 を認識するT 細胞レセプターを発現するトランスジェニックマウス(Tg-RT1 マウス)にvSC25 を感染させるとP18-I10 特異的CTL がin vivo で迅速(感染後1週間以内)に誘導される。この現象は既感染ウイルスの再暴露時の生体における抗ウイルスメモリーT 細胞応答を模倣するものと見なせる。そこで担がんマウスのメモリーT細胞応答について本TgマウスにCT26 を経皮的に接種21日後にvSC25 を感染させ抗ウイルスメモリーCD8陽性T 細胞応答を前述と同じ手法で検討したが、腫瘍の有無でその応答に差はなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述のTg-RT1マウスの交配が上手くいかず実験に必要なマウス数の確保に苦労したこと、また増殖させた組換えワクチニアウイルス(vSC25)の力価が予想外に低く実験に使用するためのウイルス量の確保にも難渋し、結果として予定していた実験が施行できなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
1. 担がん個体における既感染ウイルスに対する細胞性免疫に与える漢方薬の影響 2018年度の研究からTg-RT1マウスでは腫瘍の有無にかかわらず抗ウイルス細胞性免疫応答が維持されることが示唆された。しかし本検討は感染1週間後の脾臓細胞でのsystemicな反応をみたものである。実際には過去の研究からTgマウスの場合、ウイルス感染初日から弱いながらも抗ウイルス免疫応答が生じることが判明している。またvSC25の増殖の場は卵巣であり、今まで腫瘍の有無による局所免疫応答の変化は検討されていない。そこでvSC25 感染後早期(特に感染後1-3日目)の局所免疫応答に注目し、その時点でTg-RT1マウスの卵巣および脾臓での抗ウイルスメモリーT 細胞応答が腫瘍や漢方薬摂取の有無により量的質的に変化するか否かを明らかにする。また投与したCT26は局所増殖するものの転移しない腫瘍であり、そのことが担がんTgマウスでsystemicな免疫応答が維持されていた一因かもしれない。そこでCT26の代わりに高度に肺転移などを生じsystemicな免疫応答に大きな影響を生じうるマウス乳がん細胞株4T1を用いて同様の実験を合わせて行う予定である。 2. 腫瘍切除後個体における抗ウイルス免疫誘導能に与える漢方薬の役割 がんの外科手術後の免疫機能の回復に漢方薬が寄与するか否かを調べるため雌の担がんBALB/cマウスのCT26 腫瘍を外科的切除後にvSC25 を感染させ、漢方薬内服の有無でウイルスに対するCTL の誘導能および増殖能が変化するか否かを卵巣および脾臓細胞中のHIV 特異的CTL数および細胞傷害活性の検討を通じて評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はTg-RT1マウスの交配が上手くいかず実験に必要なマウス数の確保に難渋し、更に実験使用に耐えうる力価の組換えワクチニアウイルス(vSC25)が十分量確保できず、結果として予定していた実験が施行できず今年度の研究費を一部次年度に繰り越すこととなった。しかしながら現在Tgマウスの交配は軌道に乗ってきており今後は実験に必要十分量なマウス数を安定して確保できる見込みである。またウイルスに関しても検討を重ねた結果、実験使用に耐えうる力価を有するものが得られるようになり、現状では実験に必要十分量なウイルス量は確保されている。従って、繰り越した研究費は次年度の研究費とあわせて本研究を遂行するにあたり必要な実験動物(マウス)、試薬薬品類、培地血清類、プラスチック器具、各種抗体、アイソトープ (51Cr)などの消耗品の購入にその大半を充てる予定である。また、その一部を情報交換や学会での研究成果の公表の際に必要な出張経費に充てる予定である。
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