研究課題/領域番号 |
17K09332
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研究機関 | 鈴鹿医療科学大学 |
研究代表者 |
西村 甲 鈴鹿医療科学大学, 保健衛生学部, 教授 (20218192)
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研究分担者 |
川ノ口 潤 鈴鹿医療科学大学, 東洋医学研究所, 准教授 (50752979)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | うつ病 / 漢方薬 / 鍼灸 / 神経栄養因子 |
研究実績の概要 |
具体的内容、意義、重要性等:うつ病は、罹患率の高い精神疾患であり、現代社会において早期の回復・発症予防が重要視されている。本疾患について様々な機序が考えられているが、明確な結論は得られていない。また、薬物治療における副作用も多く、新規治療法の開発が期待されている。本研究はうつ病モデルマウスに対して副作用の少ない代替治療である漢方治療、鍼治療を行い、分子生物学・生化学的手法によりその機序の解明を目的して行われている。さらに現代医学的薬物治療との併用も含めて、東洋医学的治療によるうつ病の新規治療法の開発を目指している。 2018 年度の研究目的は、前年度に引き続き漢方薬・鍼刺激の抗うつ作用の検討およびその機序の解明である。具体的には強制水泳誘導うつ病モデルマウスに対し、漢方薬投与・鍼刺激および両者併用による抗うつ効果の検証を行った。漢方薬として柴胡加竜骨牡蛎湯薬抽出物を1 g/kg BWで経口投与した。鍼刺激として百会穴と印堂穴への20分間の同時鍼刺を行った。うつの臨床症状は強制水泳中のマウスの不動時間を測定することで評価した。さらに、採集した生体試料を用いて脳内に発現する神経栄養因子およびサイトカインの検討を分子生物学・生化学的手法を用いて行った。 成果: 前年度と同様に、鍼刺激と漢方薬投与による介入が、それぞれ抗うつ剤投与と同程度にうつ症状を抑制する事が確認された。これらの治療効果の機序の解明のための脳の生体試料を収集し、神経栄養因子やサイトカインの発現を解析したところ、鍼刺激や漢方薬は抗うつ薬投与と異なり、BDNFとNT-3の発現を増強し、NGFの発現を抑制するなど神経栄養因子の発現調節によりうつ病の症状を抑制する可能性が明らかとなった。 これらの成果は2018年8月の国際神経免疫学会で発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度の研究は、以下の通りである。 モデル動物による漢方薬・鍼刺激の治療効果および両者の併用療法の検証:前年度に続き、うつ病モデルマウスに対して漢方薬の経口投与・鍼刺激を行い、抗うつ効果を検証した。漢方薬として柴胡加竜骨牡蛎湯を用い、鍼刺激として百会穴と印堂穴への20分間の同時鍼刺を行った。さらに、漢方薬・鍼刺激の併用療法の効果の検証も行った。鍼刺激と漢方薬の経口投与が強制水泳誘導うつモデルマウスに対して有意に抗うつ効果を発揮する事が確認された。さらに鍼刺激と漢方薬の併用療法も強制水泳誘導うつモデルマウスに対して有意に抗うつ効果を発揮する事が確認された。鍼刺激と漢方薬の併用療法の相加・相乗効果については現在解析中である。 刺激の治療効果の機序の解明のための生体試料の収集と解析:鍼刺激や漢方薬治療の機序の解明のための生体試料の収集・解析も順調である。PCRおよびリアルタイムPCR解析により、鍼刺激や漢方薬が強制水泳うつモデルで減少している脳内の神経栄養因子であるBDNFとNT-3の遺伝子発現を有意に増強し、うつモデルで増加しているNGFの発現を有意に抑制することが明らかとなった。また、ELISAによる蛋白解析でも同様の結果が得られた。これらの変化が一般的な抗うつ薬であるイミプラミン投与群ではみられなかったことから、鍼刺激や漢方薬の抗うつ効果は抗うつ剤と異なる機序、すなわち神経栄養因子の発現調節を介している可能性が明らかとなった。 以上のことから、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
うつ病モデル動物による漢方薬投与・鍼刺激の治療効果の検証:2018 年度に続き、強制水泳誘導うつモデルおよび社会的敗北ストレス誘導うつモデルに対する鍼刺激および柴胡加竜骨牡蛎湯の抗うつ作用のさらなる解明を行う予定である。また、脳内の神経栄養因子が関わる、うつ病以外の神経疾患に対する漢方薬投与・鍼刺激の治療効果についても検討する予定である。現在、老齢モデルマウス(SAMマウス)の認知症状を百会穴と印堂穴への同時鍼刺が抑制する可能性を示す結果が得られており、さらなる検証が予定されている。 鍼刺激・漢方薬投与の治療効果の機序の解明:得られた生体試料を用いて、分子生物学・生化学的手法により、鍼刺激および柴胡加竜骨牡蛎湯の抗うつ作用の機序に対するさらなる解明を目指す予定である。本年度は、神経栄養因子の発現に加えて、うつ病に関わる可能性があるとされるインスリン様成長因子や免疫調節や抗炎症作用に関わるサイトカインの発現に対する作用も検討する。 漢方薬と鍼刺激の併用治療効果の機序の解明:さらに、鍼治療と漢方薬投与の併用の効果についてさらなる検討を行うとともに、得られた生体試料を用いて漢方薬と鍼刺激の併用治療における神経保護作用・抗炎症作用・免疫調節作用を分子生物学・生化学的手法により解明し、今後の新規治療法の解明に繋げる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
PCR、ELISA測定試薬の購入が次年度に少しずれ込んだため、次年度使用額が発生した。平成30年度の研究進捗は順調であり、令和元年度の研究としても予定通り進行できる状況にある。
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