肥満は高血圧や糖尿病の危険因子のひとつであり、メタボリックシンドロームの基盤となるが、肥満の血圧上昇作用や心血管病変を引き起こすメカニズムについては不明な点が多い。本研究では電子スピン共鳴法を用いて高血圧患者の細胞膜fluidity を測定し、その調節機序を肥満関連内分泌因子の関与から考察した。高血圧患者の赤血球膜fluidityは正常血圧者に比し有意に低下していた。また、nitric oxide(NO)代謝産物濃度は高血圧群で正常血圧群に比し有意に低値であり、赤血球膜fluidityの悪化がNO代謝異常と関連した。この成績は内皮機能不全が高血圧の膜機能調節に重要な役割を果たす可能性を示唆するものと考えられる。一方、adipokineのひとつであるgalectin-3の血中濃度が増加しているほど、赤血球膜fluidityは低下していた。さらに血中galectin-3濃度は血中NO代謝産物濃度と有意に逆相関した。このことはgalectin-3が一部内皮機能不全を介して膜fluidity調節に関与することを示すものと考えられる。以上から、肥満に関連した内分泌因子が高血圧の細胞膜機能に重要な影響を及ぼし、それらの調和破綻がメタボリックシンドロームの心血管病の成因に一部関与する可能性が示唆された。
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