生活習慣病や化学療法などに伴う消化管運動機能異常は重要な臨床課題の一つであり,モチリン受容体(MLNR)やグレリン受容体(GHSR)作動性物質の開発およびその臨床応用が期待されている。本研究課題は,受容体活性化機構を明らかにするとともに,生体における中枢神経系と消化器系との臓器連関,消化管ホルモン受容体の相互連関,生活習慣病における機能変化を明らかにすることを目的としている。 2018年度までは, (1) MLNRにおいて,モチリン刺激では脱感作が生じ,エリスロマイシン刺激では脱感作が生じにくい機序として,受容体のubiquitin化の差はあまり関与しないこと,GRK,PKC,b-arrestinの過剰発現系および発現抑制系を用いても両者の差はみられないことを明らかにした。(2) MLNRトランスジェニックマウスに末梢性および中枢性にMLNRアゴニストを投与し,MLNRアゴニストの胃排泄促進作用は平滑筋直接作用と迷走神経を介する作用の両方が存在すること,薬物性胃運動障害時にMLNRアゴニストを投与すると胃運動が改善することを明らかにした。 2019年度は, (1) MLNRにおけるモチリンとエリスロマイシンの脱感作の解析として,PKA活性化剤やPKA阻害剤を用いた検討では,両者の差はみられなかった。今後,G蛋白活性化の差の検討が必要と考えらえた。(2) MLNRトランスジェニックマウスの胃stripサンプルを用いてのMLNRアゴニスト刺激による収縮能の解析では,濃度依存性に収縮が亢進すること,アトロピンやテトロドトキシン共存在下では収縮減弱がないことを明らかにし,本モデルでのMLNRアゴニスト作用は,平滑筋直接作用であることを明らかにした。また,MLNRアゴニストにより血中および胃組織中のグレリンが低下し,モチリン系とグレリン系は相補的な関係にあることが示唆された。
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