研究課題
本研究の目的は、アカラシア(Type I、Type II、Type III) 及び食道胃接合部通過障害 (EGJOO)において、新規治療法の開発に繋がる病態を解明することである。(1)食道筋層に発現するサイトカインプロフィールを用いた病態解明2017年2月から2019年3月まで、食道アカラシア 39例 (Type I 6例、Type II 25例、Type III 7例、EGJOO 1例)に対して、食道筋層組織からRNAを抽出し、Real-time PCRを行った。下部食道括約筋において、アカラシア群は、対照群(食道癌患者)と比較して、有意にIL-5 (p=0.0169)、IL-13 (p=0.0014)、IL-6 (n=0.0212)及びcholine acetyltransferase (ChAT;p=0.0074)の発現の割合が低下していた。各サブタイプ間で比較した解析では、Type I群はType II群と比較して、RORCの発現が上昇し(p=0.0010)、またType III群と比較してCPI-17の発現が上昇していた (p=0.0300)。また、Type III群はType II群と比較して、ChATの発現が有意に上昇していた (p=0.0081)。(2)EGJOOの対するアコチアミドの治療効果に関する前向き臨床研究2015年から2019年まで25名のEGJOO患者をエントリーし、アコチアミド (300mg/日)の4週間経口投与を行った。アコチアミドにより13例 (52 %)でintegrated relaxation pressure (<15mHg)は正常域に改善し、食道運動は正常化した (治療前 18.4 mmHg ;16.8-20.3、 治療後 12.8 mmHg;8.2-13.3)。 また、IRPの改善に伴って、Fスケールの中で特に「ものを飲み込むとつかえることがありますか?」という項目の症状の改善を認めた。
2: おおむね順調に進展している
2つのプロジェクトについてそれぞれ説明する。(1)食道アカラシア(Type I、Type II、Type III) 及びEGJOOの筋層に発現するサイトカインプロフィールを用いた病態解明:こちらも目標症例数は、Type I 20例、Type II 20例、Type III 20例、EGJOO 20例である。現状の登録症例数は、食道アカラシア 61例 (Type I 15例、Type II 38例、Type III 7例、EGJOO 1例)である。食道粘膜層における検討と同様に、その希少性からType I及びType IIIの症例数のエントリーが遅れている。また、EGJOOに対しては、我々が有効な内服治療を見出した経緯もあり、POEM術を受ける患者が激減した影響によってエントリーが遅れている。(2)EGJOOの対するアコチアミドの治療効果に関する前向き臨床研究:2015年5月から2019年2月まで25名のEGJOO患者をエントリーした。本臨床研究は既にエントリーを終了した。今後は、さらなる解析を行っていく予定である。研究は計画通りに進んでいる。
(1)食道アカラシア(Type I、Type II、Type III)の筋層に発現するサイトカインプロフィールを用いた病態解明:こちらも、希少疾患で、エントリー数が遅れているType I 及びType III を中心に症例を集積していく。EGJOOに対しては、POEM手術を受ける患者が激減したことから、粘膜層を用いた解析のみとする。筋層を用いた解析では、アカラシア及び各サブタイプの病態解析を行う予定とする。これまでの研究にて、進行した古典的アカラシアでは、筋層間神経叢の変性・脱落が認められており、これが食道運動機能の障害の主要な原因と考えられてきた。本研究では、食道体部が無蠕動となったType Iにおいても、光学顕微鏡レベルでは形態的には神経叢に明らかな異常所見は認めていないことから、アカラシアが未だ明らかにされていない何らかの機序によって発症している可能性がある。食道運動機能を担うのは、壁内神経、ペースペーカーであるカハールの介在細胞、固有筋層平滑筋であり、アカラシアから採取した生検組織を用いて電子顕微鏡で観察することによって、これらネットワーク及び個々の細胞を評価し、アカラシアの病態解明を目指す。(2)EGJOOの対するアコチアミドの治療効果に関する前向き臨床研究本研究は、2年度で全て症例の集積が終了した。学会発表と共に論文化を行っていく。
2018年度助成金の残金は 265,446円であった。2019年度の助成金と合わせて、2019年度の研究計画に従って、物品費または学会発表の出張費に充てる。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件)
Digestion
巻: 98 ページ: 95-103
10.1159/000487708.