研究課題
本研究は、胃炎患者の中から後に胃癌や胃以外疾患を発症するリスクの高い人を判別するバイオマーカー抗体を見出すことを目標として、研究を進めてきた。検査材料として血清を試料とし、ピロリ菌抗体に着目して、ピロリ菌抗原蛋白質を同定した。胃がん発症への関与が明らかなピロリ菌病原因子蛋白質CagAはその中の1つである。網羅的なペプチドELISAアレイを作成、血清ELISA解析によりピロリ菌陽性者血清がよく反応する2つのエピトープペプチドを同定した。このペプチドのコンセンサス配列を同定し、ペプチドサイズや様々な疾患患者血清の解析を進めている。また、研究室にて東アジア型CagAリコンビナント蛋白質を精製、CagA-ELISAを作製し、アジア4か国の血清試料中CagA抗体価を測定した。本ELISAは、西洋型CagAピロリ菌が感染している地域(ミャンマー、バングラデッシュ)よりも、東アジア型CagAピロリ菌が感染している地域(ブータン、インドネシア)で、より感度よく抗体検出できることが明らかとなった。さらに、上記CagAリコンビナント蛋白質を用いて新しい東アジア型CagAイムノクロマトグラフィーの試作品を作製している。最後に、日本人血清とアジア6か国(ベトナム、インドネシア、ブータン、ネパール、ミャンマー、バングラデッシュ)の血清約1000試料を活用し、ラテックス凝集免疫比濁法にてピロリ菌血清抗体価を測定した。日本とアジア6か国の結果を比較検討し、またそれぞれすでに測定済みの抗ピロリ菌IgG ELISAデータとも比較した。どちらの測定系を用いた場合でも、ピロリ菌陽性者の血清抗体価は、ブータンで高く、インドネシアで低かった。ベトナムの血清は感度・特異度とも日本同様に高く、ミャンマーとバングラデッシュでは低かったので、地域株を用いたキットの必要性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
今年度は日本人血清だけでなく、当初予定していた通り、アジア人6か国の血清に対して、抗ピロリ菌血清抗体解析、抗CagA血清抗体解析を行い、抗体反応性に地域特異性について調べ始ることができた。
020年度は日本人血清と共に、ピロリ菌ゲノム情報が明らかなアジア人血清について、解析を進める。ゲノム解析から予測されるアミノ酸バリエーションの地域的差と抗体反応性の違い、疾患によるIgAとIgGの反応性の違いなどを明らかにしてゆく。
1年間の学内研究資金が得られたために、そちらを優先的に使い、継続予定の本研究費は20年度の研究用に残すこととしたため。2020年度は本研究の最後の年となるので、疾患特異的に変化する抗体の候補について、さらに消化器内科から分与を受けた日本人血清を用いて解析を進めてゆく。ピロリ菌ゲノム情報が明らかなベトナム株と、同一患者からの血清試料もにおいても解析を進めてゆく。
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Medcal Microbiology and Immunology
巻: 209 ページ: 29-40
10.1007/s00430-019-00634-5