研究課題
本研究は、胃炎患者の中から後に、胃癌や胃以外疾患を発症するリスクの高い人を判別するバイオマーカー抗体を見出すことを目標として、研究を進めている。検査材料として血清を試料とし、ピロリ菌抗体に着目して、ピロリ菌抗原蛋白質の中から、疾患により抗体反応性に違いがないか検討している。今年度は、日本人血清とアジア6か国(ベトナム、インドネシア、ブータン、ネパール、ミャンマー、バングラデッシュ)の1797血清試料を用いて、ラテックス凝集免疫比濁法にて測定したピロリ菌血清抗体の解析を詳細に行い、ピロリ菌血清抗体の全体像の掌握を行った。血清試料と同一患者の胃生検試料組織検体から、ピロリ菌培養及び組織染色にてピロリ菌現感染を判定したところ、ピロリ菌現感染陰性者の中に、胃がんを含む胃疾患が多数認められた。そこで、ピロリ菌現感染陰性者の胃組織の萎縮を過去のピロリ菌感染によるものと評価することでこれをピロリ菌既感染と定義し、血清抗体価からどこまで胃疾患患者の可能性を予測できるか試みた。その結果、ピロリ菌現感染のみを陽性とする場合に比べ、既感染を陽性に含めて評価した場合には、各国の最適カットオフ値は低くなり、検査の精度は低下したが、一方で胃がん試料をより多く拾い上げることができた。抗体価3.5U/mLまでカットオフ値を下げると、全血清試料の中の胃がんおよびマルトリンパ腫33検体のうち、30試料を陽性と判定できた。この陽性判定は、ピロリ菌感染と胃萎縮を考慮した値であるので、リスク陽性と呼ぶこととした。このカットオフ値近傍の値は、日本ヘリコバクター学会が注意喚起した血清ピロリ菌抗体陰性高値にあたると解釈された。今後は、カットオフ値近傍の血清を活かし、血清ピロリ菌抗体検査に工夫を加えることで、胃癌早期発見にどこまで役立てる可能性があるかを見極めてゆく。
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Journal of Gastroenterology and Hepatology
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10.1111/jgh.15467