研究課題/領域番号 |
17K09360
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研究機関 | 国立研究開発法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
岩切 大 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 高度先進医療研究室, リサーチアソシエイト (10307853)
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研究分担者 |
今留 謙一 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 高度感染症診断部, 部長 (70392488)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | EBV / EBER / 胃がん / エクソソーム / インターフェロン |
研究実績の概要 |
本研究は、EBVのnon-coding RNAであるEBV-encoded small RNA (EBER)による細胞増殖促進機構の解明を通じ、EBVによる胃がんの発生のメカニズムを明らかにすることを目的として行っている。これまで我々は、EBERがウイルスRNA認識分子であるretinoic acid-inducible gene-I (RIG-I) を活性化、I型インターフェロン(IFN)やサイトカインの産生を誘導することを明らかにした。また我々は、EBERがEBV感染細胞より細胞外に放出され、それがtoll-like receptor 3 (TLR3)を介したシグナル伝達を惹起することを見出した。さらにEBERはEBV感染胃がん細胞からも放出され、それがTLR3シグナルの恒常的な活性化を誘導していること、さらにこのTLR3シグナルの活性化がEBERによるIGF-1産生誘導を介した細胞増殖促進に関与しているということがわかった。本研究のその後の解析で、 EBERはエクソソームに含まれて細胞外に放出されること、またエクソソームにより誘導されるシグナル伝達により産生されるIFNによりEBV感染胃がん細胞の増殖が促進されていることが明らかとなり、エクソソーム内のEBERによるTLR3シグナル活性化によるIFN産生がEBV 陽性胃がんの発生に寄与していることが示唆された。一方、このエクソソームによる細胞内シグナル伝達活性化は、EBV感染細胞と非感染細胞では異なること、EBV非感染細胞では細胞の増殖への影響はみられないことから、EBV感染依存的に活性化されるIFNシグナル伝達機構の存在が示された。さらにその後の研究により、EBV感染細胞特異的にIFNシグナル伝達を介し誘導されるIRFがIGF-1の産生による細胞増殖の促進に寄与していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
エクソソーム取り込みによるTLR3シグナル活性化は、EBV感染細胞では細胞増殖を促進する一方、非感染細胞では促進がみられないことが明らかになり、EBV感染細胞特異的な細胞内シグナル制御がその違いに働いていることがわかった。またそれにはエクソソーム取り込みにより産生誘導されるIFNによって誘導される細胞内シグナル伝達が関わっていることが明らかになったのに続き、EBV感染細胞特異的にIFNにより誘導されるIRFがIGF-1の産生を誘導、結果EBV感染細胞の増殖が促進されることが明らかになった。これらの結果は、本来抗ウイルス作用をもたらすIFNシグナルがEBVによって制御され、EBV感染細胞の増殖へと向かう機構が存在することを示唆するものと考えられ、本研究において課題とした重要な部分が明らかになったといえる。その一方で、EBV感染細胞特異的なIFNシグナル制御機構の詳細についてはまだ明らかでなく、個々のウイルス分子の関与についての解析もまだ十分ではない状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
IFNにより誘導される細胞内シグナル伝達がEBV感染細胞においては抗ウイルス効果ではなく、感染細胞の増殖を促進すること、それにはIRFが関与していることが明らかになった。引き続きEBV関連胃がん細胞において発現しているEBERやLMP2AといったEBV遺伝子の欠損ウイルス感染細胞を用いた解析も行いながらIFNにより誘導されるシグナル伝達機構に与える影響について検証する。さらにウイルス感染細胞および非感染細胞にIFN刺激を加え、発現誘導あるいは抑制される遺伝子の網羅的解析や、活性化されるタンパク質の網羅的解析などを行い、EBV特異的なIFNシグナル制御について明らかにしていく。またエクソソームを用いた解析も行い、エクソソームにより誘導されるシグナル伝達がEBV感染細胞特異的な制御をうけているかどうかについても検証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ計画通りに使用したが、最終的に購入物品の価格が想定以下となったため。
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