研究実績の概要 |
申請書に記載したように、C57BL/6マウスのパイエル板において生後16日から19日にかけて濾胞関連上皮(follicular associated epithelium, FAE)内M細胞の表皮型脂肪酸結合タンパク質(epidermal fatty acid protein, EFABP)の発現強度、陽性細胞数が増加する。一方、FAEと上皮下組織はS100タンパク質陽性の構造物で境界される。FAE-上皮下境界のS100タンパク質陽性反応はER-TR7陽性反応と重なるためS100タンパク質を発現しているのはfibroblastic reticular cellであると考えられる。 EFABP発現強度が増加するとEFABP発現細胞内にS100タンパク質の取り込み像が観察されるようになり、CD11c(樹状細胞マーカー)陽性細胞がFAE-上皮下境界を越えてFAE内に遊走するようになる。S100タンパク質陽性の構造が樹状細胞の遊走に対して障壁として働き、EFABP発現に相関するS100タンパク質の取り込みがこの障壁を破壊することで樹状細胞の上皮内への進入路がひらけると考えられる。 生後3、7、14、21日後での比較でS100タンパク質陽性境界は発達に従い厚みを増す。M細胞を介して上皮下の樹状細胞に抗原が受け渡されるためにはM細胞の直下に上皮下の樹状細胞の進入路が形成されるはずである。樹状細胞もEFABPを発現している。EFABP発現強度とS100タンパク質取り込みが相関すると考えられるので、M細胞と樹状細胞で挟まれた領域ではS100タンパク質取り込み活性が倍になり、他の部位より優先的に樹状細胞の進入路が形成される。EFABP発現とS100タンパク質の相互作用がM細胞を介した樹状細胞への腸管内抗原の受け渡しの制御機構として機能すると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きin vivoでの強制発現の方法を検討するとともに、現在EFABP発現変化が確認できている系で、パイエル板での腸管内抗原提示に関連するタンパク質発現がEFABP発現と少なくとも相関することを確認する。EFABP発現は①生後発達期、②Vitamin A強化食餌の投与で増加し、③ovalbumin (OVA)1mgと アジュバンド[oligodeoxynucleotides containing immuostimulatory CpG moitfs(CpG-ODN) : TCCATGACGTTCCTGACGTTの経口投与により減少することが予備実験により分かっている。 L. acidophilusは EFABP非存在下の腸管内で増殖する。この菌株を認識する分子はDC-SIGNである。当初の計画ではelectroporation法によるEFABPの発現量変化にDC-SIGN発現が同期することを確認する予定だったが、上記①~③の条件下での発現変化を確認する。 EFABP陽性樹状細胞がM細胞直下に偏在する(Suzuki et al. 2009)ことから、EFABP陽性M細胞による樹状細胞遊走因子分泌が予想される。当初のH30年度計画通り、M細胞に発現する既知のケモカインの同定を行う。EFABP陽性M細胞直下に集積する樹状細胞はEFABP陽性、CD11c陽性である(Suzuki et al. 2009)。CD11c陽性の樹状細胞で発現しているケモカイン受容体はCCR7,CXCR4,CXCR5で、それらの既知のリガンドはCCL19, CCL21, CXCL12, CXCL13である(Cravens and Lipsky, 2002 )。それぞれのリガンドに対する特異抗体とEFABP抗体との二重免疫染色を行い、共存関係を確認する。上記①~③の条件下での発現変化を確認する。
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