研究課題
本研究の目的は、大腸癌の微小環境における腫瘍関連マクロファージ(tumor-associated macrophages, TAM)の発現プロファイルの解析により、TAMが腫瘍の増殖、浸潤に寄与するメカニズムを明らかにすることであった。当初の研究実施計画は、大腸癌の手術検体からTAMの分離を行い、DNAマイクロアレイを用いて網羅的発現解析を行うこととしていた。そして、発現が変化している特定の遺伝子群を抽出することにより、TAMが腫瘍増殖、浸潤に寄与する機序を同定し、進展や予後予測のバイオマーカーを明らかにする予定であった。しかし、大腸癌組織からTAMを分離する過程に困難が生じ、網羅的発現解析を行う体制を構築し得なかった。そのため、従来切除され、保存されていた大腸癌検体を用いて、免疫組織化学による蛋白発現の解析を行った。近年、肝細胞癌や乳癌において、TAMとWntシグナル経路の関連と癌進展への関与が報告された。大腸癌における関連を調べる目的で、進行癌と前癌病変において、Wntシグナル経路の重要な転写促進因子であるβカテニンとTAMのマーカーとされているCD206の免疫組織化学を行った。その後、進行癌においてTAM浸潤様式と腫瘍の臨床病理学的特徴に関して予備的検討を行ったが、相関は得られなかった。しかし、副次的に、まれな大腸前癌病変である鋸歯状腺腫において、βカテニンの核内集積が高頻度であることが確認された。鋸歯状腺腫の形成におけるWntシグナル経路の重要性が示唆され、学術論文として発表した。さらに、現在、十二指腸の前癌病変において、CD206に加えて、βカテニンと、マイクロサテライト不安定性の代理マーカーとしてのMLH1, MSH2の免疫組織化学による検討を行っており、今後解析を行う予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
PLoS One
巻: 15 ページ: e0229262
10.1371/journal.pone.0229262