研究課題/領域番号 |
17K09380
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
瀬戸山 健 京都大学, 医学研究科, 客員研究員 (80760595)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大腸癌肝転移 / 分子標的薬 / 増殖因子 / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
当研究において、実験モデルについては、転移巣局所の微小環境を生理的に再現することが重要であるが、マウス大腸癌細胞株を採用し、hemispleen injection法により野生型マウスに移植することで、安定したモデルが構築できた。また、採用癌細胞では、逆転写PCR法にて、細胞株におけるIGF type 1 receptorの発現を確認、リガンドであるIGFの分泌は癌細胞自体からはみられないことを確認済みである。さらに、Free IGF-1測定については、これまでにバイオアッセイであるKIRA法で測定系を構築済みであり、ELISA法でも確認できている。以上のように、当研究に必要なマウスモデルはすでに安定構築されている。 腫瘍量測定は、当初ルシフェラーゼ遺伝子導入を行った細胞を用いることで、ルシフェラーゼアッセイにて半定量的な評価を検討した。しかし、これまでの我々の研究結果から、癌の肝生着、転移巣形成早期に、IGF signalが活性化する可能性が示唆されているが、同時期の腫瘍量の評価では誤差が大きく、安定性が確保できなかった。以上から当研究において、ルシフェラーゼアッセイは治療効果判定のための腫瘍量の測定には使用できないことが判明した。 さらに、Free IGF-1を遊離させるIGFBP分解酵素であるMMP-7の癌細胞自身からの発現が、微小環境において重要であると考えており、遺伝子導入によりヒトMMP-7高発現株を作成した。ヒトとマウスにおいて、MMP-7の分子構造の差異は微小であるが、当マウスモデルでは、ヒトMMP-7発現細胞では、抗IGF中和抗体の抗腫瘍効果が十分に証明されなかった。そこで、マウス血中でのヒトMMP-7活性をウエスタンブロット法を用いて確認したが、活性化がみられなかった。以上より、ヒトMMP-7はマウスの微小環境では活性化しないことが証明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当研究のモデルについては、肝転移生着率がほぼ100%の安定した方法で、短期間に肝転移の増大がみられるが、検討のタイミングとしては、抗IGF中和抗体の効果がもっとも発揮される転移形成初期の比較的小さい転移巣をターゲットとする必要がある。当初、治療効果判定に用いる腫瘍量測定については、ルシフェラーゼアッセイを採用した。in vitroにおける癌細胞数に応じた発光量については、腫瘍量との相関がみられ、肝転移巣が進行、増大した状態においては、十分に測定可能であった。しかし、肝転移巣形成時期の比較的腫瘍の小さい時期については、個体差による誤差が大きく、再現性において、安定した結果が得られなかった。そのため、治療効果判定の腫瘍量測定系の見直しが必要となった。 また、ヒトMMP-7高発現細胞は、in vitroでは、細胞培養液上清にMMP-7が分泌、IGFBP-3が切断され、Free IGF-1の遊離とIGF-1Rのリン酸化が確認できた。同細胞を用いることで、理論上は、癌細胞から分泌されるMMP-7がIGF signalをより活性化し、転移形成能が亢進すると同時に、抗IGF中和抗体による治療効果も向上すると考えられた。しかし、マウス生体内では、血中のFree IGF-1の増加が確認できず、肝転移形成能の亢進もはっきりせず、肝転移に対するIGF signalの活性化が確認できなかった。そこで、改めて、マウス血中でヒトMMP-7の検出をウエスタンブロット法を用いて行ったところ、28kdのpro-formは確認できたが、20kdのactive formが検出できず、最終的に、ヒトMMP-7はマウス血中の微小環境においては活性化しないという結論に達した。 このように、腫瘍測定系の見直しと生体内でのMMP-7の活性化の有無の検討に時間を要し、治療実験のデータ集積に遅れを生じている。
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今後の研究の推進方策 |
実験計画に沿って進めてきた実験内容については、測定系やメカニズムの検証において、実験方法の修正が必要ではあるが、概ね順調であり、今後も安定構築されたマウスモデルを用いた治療実験ならびに、バイオマーカー検証を進める予定としている。 上述した本研究課題の遅れに対する解決策として、まず、これまで検討に用いてきたルシフェラーゼアッセイは当研究には不適であることから、治療効果判定のための腫瘍量測定系の見直しが必要である。これまでの我々の検討から、腫瘍量と相関が確認されている腫瘍マーカーである血中CEA濃度測定を採用することとした。ただし、当モデルに採用している大腸癌細胞株はCEA発現が確認されなかったことから、レンチウイルストランスフェクション法により、CEA発現細胞を作成中である。CEA測定による腫瘍量測定系により、さらに正確な腫瘍量測定が可能となると考えられる。 さらに、IGF signalの活性化に重要なMMP-7の導入を引き続き検討するが、これまでの我々の検討からヒトMMP-7は、マウス生体内では活性化しないことが判明した。今後は、マウスMMP-7を同様に遺伝子導入して、in vitroにて活性を確認した上で、in vivoにおける活性化の確認を行う予定である。癌細胞が分泌するMMP-7が転移巣局所において活性化することにより、Free IGF-1の遊離が促進されると考えられる。 血清Free IGF-1測定のタイミングを調整することで、肝転移形成期をより的確にとらえ、転移形成初期から早期に治療介入できるプロトコールを改めて立案する。in vivoにおける治療実験のプロトコールを確定したのち、実験個体数を増やして、MMP-7高発現株と親株におけるIGF中和抗体の治療効果を比較、検討し、血清Free IGFのプロファイルを検証して、バイオマーカーとしての有用性について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、本年度中に実験個体数を増やして、最終的なin vivo実験を開始し、検討する予定としていたが、前述のように若干の計画修正が必要となり、次年度に、個体数を増やした最終的なin vivo実験、検討を計画し、本年度の予算を繰り越すこととなった。具体的には、実験個体数を増やして、MMP-7高発現株と親株におけるIGF中和抗体の治療効果を比較、検討し、血清Free IGFのプロファイルを検証して、バイオマーカーとしての有用性について検討する。 よって、まずは、マウスMMP-7の腫瘍細胞への導入を急ぎ行う必要があり、これまでの結果から、細胞株からのMMP-7の分泌をin vitroで確認した上で、マウス血中で、pro-formがactive formとして活性化されているかを確認する必要がある。 そして、次年度は、実験個体数がこれまでより増加し、摂取腫瘍細胞数も増加する。また、バイオマーカーとしての有用性を検討する血中Free IGF測定のためのELISA用備品ならびに試薬、治療効果判定目的の腫瘍量評価のための血中CEA測定のためのELISA用備品ならびに試薬の必要量が増加する。つまり、必要試薬、測定備品の購入が増加することが予想され、直接経費がこれまで以上に必要となると考えられる。このような最終年度の必要経費の増加に対応するために、前年度の残金を次年度に繰り越すこととした。
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